「法律」からビジネスを加速させる。弁護士・水野祐が語るリーガルデザインの可能性
水野 祐(弁護士。シティライツ法律事務所。Arts and Law代表理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ))
2018.02.23

著書『法のデザイン』で、創造性を促進するものとして「法律」を捉える「リーガルデザイン」を提唱し、各分野のイノベーターから厚い信頼を集める気鋭の弁護士・水野祐。国民的ドキュメンタリーテレビ番組『情熱大陸』への出演によって世間の注目を集めたことも記憶に新しい。

2017年12月、水野氏は弁護士の伊藤雅浩氏、平林健吾氏とともにIT・クリエイティブカルチャーなどを事業領域とする「シティライツ法律事務所」を立ち上げた。彼は日々進化を遂げるテクノロジー企業や、先端技術を駆使して活動を行うメディアアーティストなど、多くクライアントの戦略法務に従事している。

法を駆使してクライアントの創造性、イノベーションを最大化するとはどういうことだろうか? そのために水野氏はどのようなアプローチを行なっているのだろうか? 法律によってビジネスをブレイクスルーさせるためのヒントを探った。


取材・文:加藤将太 写真:豊島望

ぼくはクライアントとともに未来を描く、ディスカッションの相手でありたいんです。

HIP編集部(以下、HIP):このインタビューでは「法律の観点からビジネスのイノベーションを起こせる可能性」と、そのために「企業の法務担当ができること」について伺いたいのですが、そもそも水野さんが弁護士を志したきっかけとは何だったのでしょうか。

水野佑(以下、水野):高校生の頃からサブカルチャーやアートが好きだったんです。いつかそれらに関わる仕事がしたいなと思っていたんですけど、大学時代にアメリカの法学者・ローレンス・レッシグの『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』(翻訳 / 山形浩生、柏木亮二)という本に影響を受けて、インターネット社会で活躍するクリエイターや作家の方々を法律でサポートできるようになれたら面白いなと思ったんですね。

水野祐(シティライツ法律事務所)

HIP:表舞台に立つのではなく、裏方の立場からアートやサブカルチャーに携わりたいと考えたのですね。

水野:そうですね。主に音楽や映像、映画、出版、アニメ、デザイン、アート、ファッションなど、一般に「エンターテイメント」と呼ばれる分野の仕事を担当しています。同時にテクノロジーの進歩にも興味があったので、最先端技術を用いたIT企業や作品制作を行うメディアアーティストなどからご相談をいただくことも多いです。

こうした特殊な分野に携わっていることに起因しているのかもしれませんが、ぼくの立ち位置やマインドは、普通の弁護士さんとはちょっと違っているかもしれません。弁護士というとクライアントを「守る」イメージですが、それよりは「並走する」ほうがイメージに近いかもしれません。

法律面のパートナーというのは大前提ですが、依頼に対して解決策を提案するだけでなく、クライアント企業やアーティストに並走しながらともに未来を描く、ディスカッションの相手でありたいと思っています。

業務でもそこに価値を置いていて、ビジネス領域のクライアントの場合、新規事業を立ち上げる段階からプロジェクトに加わって、法律面を考えるだけでなく「この企画はこうしたほうがいいんじゃないか」「もっと違うところに問題があるのではないか」といった提案も行いながら、関係を構築しています。

「既存の価値観を問う姿勢」はアーティストだけでなく、新規事業に取り組む人にも通底している。

HIP:法律という観点から事業をコンサルティングする、相談役のような存在ですね。著書『法のデザイン ―創造性とイノベーションは法によって加速する』(以下『法のデザイン』)では、法律を主体的に解釈する「リーガルデザイン」によって、社会やビジネスをドライブさせることができるとおっしゃられていました。

水野:法律や契約といった言葉には「規制する」というネガティブなイメージが強いかもしれません。しかし、うまく利用することによって自分たちが実現したいことを促進し、イノベーションを加速させるツールにもなり得ます。

IT系のビジネスを想像するとわかりやすいかもしれませんが、新しい事業領域に対して、それを規定する法律が未整備だということも少なくありません。

つまり、現実と法律との乖離、すなわち法律的な「グレーゾーン」が生まれているんですね。そうした法と現実のあいだに生まれた「余白」をクリエイティブに解釈することができれば、ビジネスにおける戦略上の選択肢が広がります。未開拓の分野において自ら先例をつくり、業界全体のルールメイクを行える立場となる可能性もあります。

HIP:水野さんはアート・クリエイティブ領域の業務も携われていると伺いましたが、いまのITビジネスの話とも関係があるのでしょうか?

水野:アートが社会的に持つ重要な役割の一つに「既存の価値観を問う」というものがあります。こうした新しい価値観を提起するためにアーティストは、これまでに誰も見たことのないような手法で表現活動を行うわけですが、それを法的観点からサポートするのもぼくの仕事です。

ベンチャー企業の方々と仕事をしていると、こうした「既存の価値観を問う姿勢」は、アーティストだけでなく、イノベーションに取り組む方々にも通底しているように感じます。実際、いま現在テクノロジー企業がサービスを通じて社会に問いただそうとしている課題に対して、アーティストが作品の題材として数年前に扱っていた事例も少なくありません。

例えば仮想通貨を始めとするフィンテックの領域が社会的にも関心を集め、「貨幣の本質とは何か?」といった議論が活発化していますよね。しかしこれまで、多くのアーティストたちが、作品を通じて「貨幣の価値」を世に問いかけてきた歴史があります。メディア研究の第一人者であるマーシャル・マクルーハンという思想家が「アートは未来予測の装置である」という旨の発言を残していますが、アートとビジネスのあいだにはまだ明確な解が見出せていないだけで、相関関係はあると個人的には感じます。

『法のデザイン』では文化的な事例を中心に取り上げていますが、何か新しいことをしたいけど大きなジレンマを抱えている大企業や、行政の人たち、あるいは面白いことをやりたいのに勇気が出ない、糸口が見つけられないビジネスマンに一番読んでもらいたいと思って執筆しました。

そうした方々に読んでいただけたのか、出版してからは企業の方から「リーガルデザインをお願いしたい」という依頼も来るようになりました。とくに経営企画など、企業や行政の上層レイヤーで、ビジョンを決める責任を担っている人たちが共鳴してくれているのが嬉しいことですね。

次のページ

GoogleやUberのイノベーションは法務が支えている!? ビジネスを最大化する「法務戦略」を語る