「サッカーもまだまだマイナー競技」。スポーツビジネスの可能性を元・川崎フロンターレ広報が語る
天野春果(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 イノベーション推 進室エンゲージメント企画部長 / 元・川崎フロンターレプロモーション部部長)
2017.06.20

2020年の『東京オリンピック』という大きな節目を前に、いま日本のスポーツビジネスの現場では地殻変動が起きている。バスケットボールの新たなプロリーグ「Bリーグ」の立ち上げに奮闘するものや、スポーツチームやブランドに向けたコンサルティング会社を立ち上げて、後進の育成に励むもの。スポーツの市場を拡大させようとさまざまなチャレンジを行う彼らの取り組みは、スポーツ業界に限らず、多くのビジネスマンにとって大きなヒントとなるだろう。

HIP編集部は、そんなスポーツビジネスの最前線で奮闘する人々に着目し、その姿を追った。まず話を伺ったのは、2016年まで川崎フロンターレのプロモーション部部長として斬新なプロジェクトを手がけてきた天野春果氏だ。

彼が生み出した、「地域密着」をテーマとするプロモーション企画の数々は、地元・川崎の枠を超えて話題を呼び、ファンの心を掴んだ。2016年にはクラブ創設以来、過去最高の観客動員数を記録し、Jリーグが行う「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」調査において7年連続トップの評価を獲得。川崎フロンターレは「Jリーグで最もファンに愛されるチーム」として知られることとなる。

ファンの心を掴むには、何が必要なのか? スポーツを通じて日本を盛り上げるために、ビジネスを通じてできることは何なのか? 2017年4月よりフロンターレを離れ、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ出向した天野氏に話を聞いた。


取材・文:宮田文久 写真:岩本良介

「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」7年連続1位を獲得した、愛されるチームづくりの秘訣とは?

HIP編集部(以下HIP):天野さんが川崎フロンターレのプロモーション部部長として行なってきた数々の企画は、ファンのあいだで話題を呼び、観客動員数の増加に貢献されていましたね。

天野春果氏(以下、天野):ありがとうございます。Jリーグのほかのクラブチームでは、どこもやっていないようなことばかり企画していたと思います。

HIP:特に2016年シーズンのフロンターレは、J1リーグの年間の勝ち点で2位、そして『天皇杯』では準優勝と、「ファンに愛されて勝つ」というクラブの姿勢を体現していましたね。

天野:もちろん、優勝できなかったことは悔しいですよ。本当はリーグでも『天皇杯』でも優勝したかったわけですから……。でも、クラブを運営していくうえで大事なことは、必ずしも勝ち負けのみではないと思っているんです。それに、これで「次のシーズンこそは」とクラブとファンが気持ちを1つにできることも、スポーツのいいところですね。

天野春果氏(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 イノベーション推進室エンゲージメント企画部長 / 元・川崎フロンターレ プロモーション部部長)

HIP:天野さんが着想する企画のアイデアは、どれもユニークでした。人気漫画『宇宙兄弟』とコラボユニフォームを製作したり、強豪・名古屋グランパスエイトとの対戦時に「難局物語」と銘打って、南極から生中継で始球式を行ったこともありましたね。

天野:南極からの生中継は2年がかりの企画でしたね。当時、南極に赴任していた観測隊員に、川崎市民の方がいらっしゃったんですよ。国立極地研究所や川崎市教育委員会などにサポートいただいて実現できました。

『宇宙兄弟』とのコラボユニフォーム

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難極物語

HIP:正直、一見「サッカーに関係ないのでは?」と思われる企画も多かったと思いますが、どれも地元のファンに喜ばれるものになっていました。その結果、「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」調査で、7年連続1位を獲得されています。ファンに愛されるチームづくりの秘訣は何だったのでしょうか?

天野:いろんな「チャンネル」を用意しておくことですね。ファンになっていただける方は、どこを入り口にするかわからない。サッカーを観たことがなくても、漫画好きの方が『宇宙兄弟』とのコラボ企画から興味を持ってファンになってくださる場合もあるでしょう。その「チャンネル」は多様であればあるほどいい。

チームの集客だけのために行うプロモーション企画では、周囲の人たちの理解を得ることはできない。

HIP:企画づくりにおいて、大事にされているポイントは何でしょうか?

天野:ぼくがプロモーション企画を練るときに重視するのは、「地域性」「話題性」「社会性」、そして「ユーモア」です。料理の味の加減のようなもので、このうちどれが欠けてもうまくいかないでしょう。特に、日本でスポーツビジネスを考えるときに重視すべきなのが「社会性」です。公共性と言い換えてもいいかもしれません。

サッカーファン以外の人たちも巻き込んでプロジェクトを行うわけですから、必然的にほかの業界の人に協力をしてもらうことになりますよね。そのためには、企画が社会的な意義を持っていて、地域の人たちにスポーツを身近に感じてもらえるものでなければいけません。そのために、一見突飛な企画だと敬遠されても、説明を粘り強く続け、協力してもらえる体制をつくることを意識していましたね。

HIP:チームの広報だけを考えていても良い結果は得られない、ということでしょうか。

天野:チームの集客だけのために行うプロジェクトは、決して周囲の人たちの理解を得ることはできないでしょう。「社会性」のもとにネットワークを広げ、みんなを巻き込みやすい状況をつくっていく。そこに「話題性」や「ユーモア」を加えて、面白く、柔らかくしていく。このバランスが肝要なのだと思います。

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人々がスポーツに魅了されるのは「負け」があるから。負けても楽しいチームづくりがファンを引き込む

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