通信事業の同質化から抜け出すために。KDDIが挑む「ライフデザイン企業」への転換
渡辺和幸(KDDI株式会社 ホーム・IoTサービス企画部部長)
2017.11.22

市場調査で得たセキュリティー文脈へのニーズを満たすだけでは、サービスを使ってもらえない。

HIP:渡辺さんは、ホーム・IoTサービス企画部部長として、「au HOME」プロジェクトを主導されていますが、IoTへの個人的な思いもあって、このプロジェクトが立ち上げられたのでしょうか?

渡辺:いえ、じつは今年の4月からこの部署に配属になりまして、それまではマーケティング部門の部長だったんです。ホーム・IoTサービス企画部は1年ほど前に設置され、すでに「au HOME」プロジェクトの準備はかなり進められていました。そこで、異動してすぐに、「au HOME」のコンセプトの変更を提案するところから仕事をはじめました。

HIP:コンセプトの変更とは、具体的にどういったことでしょうか?

渡辺:ホームIoTに関する市場調査をすると、「窓が開いたら知らせてくれる」「カメラで家の様子が見られる」といったセキュリティー文脈にニーズがあるという結果が浮かび上がってくるんです。その調査をもとに、「au HOME」も「あんしん」に特化した準備が進められていたのですが、お客さまに購入してもらったうえでつかい続けていただくためには、それだけでは物足りないのではないか、「べんり」「たのしい」という要素が必要なのではないか、と考えたんです。

ですから、コンセプトを「あんしん、べんり、たのしい」に変更し、対応デバイスの追加を行いました。この11月に発売になった、家電の操作を一括してできるリモコンや、電力消費を計測できるメーターといったデバイスですね。

auHOME

HIP:サービスの根幹であるコンセプトの変更というのは、すごく大きなことですよね。どのようにして社内を納得させたのでしょうか?

渡辺:KDDI全体の方針として、通信以外のジャンルに進出していくことは決まっていましたが、「本当にホームIoTサービスは普及するのか?」に関しては、懐疑的に見られていた部分がありました。私自身が感じていたことと同じですよね(笑)。

その疑問を解決するために、まずはホームIoTサービス企画部メンバーの間でお客さまに使っていただくにはどうしたらいいのかを徹底的に議論することから始めました。チームメンバー全員が納得し、共通したビジョンを持っていないと、会社全体を説得することは難しいですからね。

HIP:渡辺さんが実際にデバイスをつかって、ユーザーとして不便な点を体感していたことも、社内の説得に役に立ったのではないでしょうか?

渡辺:そうかもしれませんね。チームのメンバーにも、世の中にあるおもしろそうなものは、実際に買って使ってみろということは伝えています。消費者の目線でフラットに使ってみることで、本当のニーズを見い出すことができ、その意見に説得力が生まれるのだと思います。

「新しいものを普及させる」ことを繰り返してきたのが、通信事業者の歴史。

HIP:11月の発表では、そのコンセプトの変更に基づいたデバイスが追加されたほか、これまでは「au ひかり」の契約者のみであった「au HOME」の利用対象者を、auのスマートフォンのユーザーにまで拡充する施策も発表されました。これも普及への大きな一手ですよね。

渡辺:そうですね。auスマートフォンのユーザーという大きなリソースを視野に入れ、さらに資金を投じて「ペネトレーションプライシング(市場浸透価格)」で展開できるというのは、われわれのような大企業の強みだと思います。

現在、全国に約2,500店舗ある「auショップ」には、月に1,000万人ほどのお客さまに来店していただいています。来店された方に、「au HOME」を紹介できることも重要ですよね。

HIP:しかし、携帯電話を求めて「au ショップ」にやってくるお客さまにホームIoTサービスを薦める、という運用の変更は、社内でも大きな調整が必要になるのではないでしょうか?

渡辺:その通りです。そこは、大企業であることがマイナスに働く部分なのかなと思います。大きい企業であればあるほど、「慣性」も大きくなりますから、「auショップ」の運用を一気に変えるのは難しいでしょう。

また、ホームIoT自体が知られていない状況のなかで、「auショップ」でお客さまにその価値を理解してもらうための方法も考えなくてはなりません。携帯電話のように、料金形態やプランの違いを説明しても、比較対象があまりない現状では意味をなしませんからね。社内の運用方法の変更も含め、どうすればお客さまによりよい提案ができるのか、ということは、今後の大きな課題であると考えています。

HIP:あわせて発表された「Google アシスタント」との連携については、どのようにお考えでしょうか?

渡辺:ホームIoT事業が成功するかどうかを考えるにあたって、「Google Home」や「Amazon Echo」の存在はすごく大きなものでした。これらのスマートスピーカー(AIスピーカー)がアメリカで支持を集め、消費者の行動が変化しているというデータが出ていたので、この流れは日本にも来るだろうと予測しておりました。そのタイミングをうまく捉えることができれば、ホームIoTサービスが日本でも受け入れられるのではないか、と考えていました。

HIP:普及に向けた施策が実を結び、ホームIoTがユーザーに受け入れられた未来とは、どういったものになるのでしょうか?

渡辺:特別な技術が誕生して生活が劇的に変化する、ということではなく、スマートフォンやインターネットと同じく、「当たり前のもの」として生活のなかに溶け込むことが、現時点で目指すべきゴールだと考えています。

たとえば、ライトのスイッチを押して消すことがなくなるとか、隣の子ども部屋の様子を映像ですぐ見られるとか、そういった本当に日常的な行動に、ごく自然にIoTが関わっている。そんな未来を想像していますね。

HIP:携帯電話やスマートフォンも、発売当時、ここまで普及するとは誰も想像していなかった。その歴史に携わってきた、KDDIならではの未来像のように感じます。

渡辺:そうですね。携帯電話やスマートフォン、インターネット回線など、「新しいものを普及させる」ことを繰り返してきたのが通信業者です。そのアングルは、ホームIoTという新たな分野でも変わりはありません。ノウハウや知見を生かして、戦っていけるのではないかと思っています。

HIP:携帯電話は、もはやレッドオーシャン市場といっても過言ではないと思いますが、普及しはじめていないホームIoTというブルーオーシャン市場での仕事は、また別の大変さや楽しみもあるのではないでしょうか?

渡辺:たしかに、そうかもしれません。携帯電話はレッドオーシャン中のレッドオーシャンですからね(笑)。私自身、新しいデバイスやギアが好きなので、これまで自分が抱えてきた不満を解消しつつ、もっと新しい世界を実現できるかもしれないという意味でも、すごくワクワクしています。

Profile

プロフィール

渡辺和幸(KDDI株式会社 ホーム・IoTサービス企画部部長)

1968年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、94年に日本移動通信株式会社(現KDDI株式会社)入社。au事業のマーケティング業務を長く担当。2017年4月より、ホーム・IoTサービス企画部長に就任。

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