INTERVIEW
無謀なテーマが生んだ世界初の家電。「ランドロイド」開発の舞台裏
阪根信一(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長)

INFORMATION

2018.04.26

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世の中に発表後、イノベーションに飢えたエンジニアたちが集まってきた。

HIP:実際に協働されていると、その蘇っていく力がより生々しく感じられるのでしょうね。少し別の角度でお話をうかがいますが、2015年の『CEATEC』で「ランドロイド」を初めて世の中に発表した直後に、エンジニアを大量に募集していらっしゃいましたよね。

阪根:そうですね。『CEATEC』での発表以前から細々とエンジニアは募集していたのですが、当時、「ランドロイド」の開発は本当にシークレットでした。ですから、ロボティクスや画像解析のエンジニアを募集していても、会社のウェブサイトにそのような製品、情報は一切ない、というような状況でした(笑)。

まったく情報がないなかで、「何をやらせてもらえるんですか?」と問い合わせてくださった方もいたのですが、「言えません」と。面接でも言えませんし、「入社したら言います」とお返事するしかないわけです。当然、ほとんど入社してくれる方はいなかったんですが、それでも入社を決めてくれた少数のエンジニアは、ゼロからイチをつくることにやりがいを見出す、いわゆる天才肌の方が多かったんです。

一方で、『CEATEC』で情報が一気に広がった後に応募してくださったエンジニアは、もともと大企業で働いていて、イノベーションや、尖った技術開発に飢えていた方々でした。「ランドロイド」というテーマにものすごく熱い思いや好奇心を抱き、かつ大企業で積んだトレーニングによって、先ほど触れたような製品化までのノウハウを持っているような方たちだったんです。

HIP:そういった異なるタイプのエンジニアが集まるなかで、開発の現場では、どのような影響が生まれていったのでしょうか。

阪根:やや赤裸々な話をすると、『CEATEC』以前から開発に関わってきたエンジニアは、まったくのゼロからイチを生んできた方々です。そこに後から大手メーカー移籍組の方々が入ってきたときに、少し変化がありました。

具体的には、移籍してきた方々が「ランドロイド」を見たときに、「たしかに原理としてはすごい技術だけど、この延長線上で一般ユーザーが手にできる価格で、安全な量産製品にするのはちょっと……」というような、大企業のノウハウに基づいた声が上がるわけですね。「ランドロイド」という製品を世に出すということを考えたら、それは当然のことだと思います。

すると一時期、従来からいたエンジニアの発言力が弱くなる。とはいえ、次のプロトタイプに取り掛かると、そこでまた乗り越えなければいけない大きな壁が出てくるんですね。そういうときに突破力を発揮するのが、以前からいたエンジニアの方々だったりするんです。壁にぶつかり、それを打破する画期的なアイデアが生まれ、それをブラッシュアップすることで、新旧のエンジニアたちが少しずつ融合する。ぼくたちはこれを繰り返してきました。

HIP:大企業に蓄積されたノウハウと、スタートアップの突破力が噛み合う瞬間が出てくるんですね。

阪根:そうですね。さまざまな紆余曲折を経ながら、少しずつ噛み合っていく。そしてその後、パナソニックさんからもエンジニアの方々がやってきてくださったときに、さらにまたすさまじい技術のレベルアップが起きました。ぼくたちに欠けていたものをアドバイスしてくださって、それがまた全体として融合して……そうやって、いまに至るんです。

日本の大企業は優秀な方の多い「人材バンク」だと、あらためて実感しました。

HIP:近年、日本の大企業ではなかなかイノベーションが起きないということも言われています。しかし、じつはたくさんの才能や人材といったリソースが大企業のなかにあるということですよね。

阪根:そのとおりです。ぼくは、日本は「人材バンク」だと思っています。日本の大企業にいるエンジニアが優秀であるという感覚はもともとありましたが、この「ランドロイド」で実際にそういった方々と触れ合ったことで、あらためて本当にすごい、と実感しています。

HIP:優秀な技術者がいるにもかかわらず、大企業でイノベーションが起きづらいといわれるのは、なぜなのでしょうか。

阪根:いろいろな原因があるとは思うのですが、一番大きいのは「テーマがない」ということだと思います。イノベーションが起きないということは、イノベーティブなテーマがないということなのではないでしょうか。

日常の課題を解決する洗濯物自動折り畳み機という案は、決してぼくだけが思いついたことではないと思います。おそらく、日本のみならず、世界中の家電メーカーで、少なからず話題に上がってきたはずなんです。しかし、実現はされていなかった。それはつまり、このイノベーティブなテーマが、大企業のテーマとして採用されなかった、ということなんですね。

でも、それはよくわかる話でもあるんです。ぼくらは開発をはじめてから発表するまでに、10年もの歳月がかかりました。利益も上げられないまま、これだけの長い時間、熱意を持ってこんな馬鹿なプロジェクトに突き進むなんて、大企業ではなかなか難しいじゃないですか。

HIP:だからこそ、大企業とベンチャーが協働することの意義がありそうですね。

阪根:そうですね。突破力を武器に無茶なテーマにチャレンジするベンチャーと、それを加速する大企業の協働は、ひとつの勝ちパターンだと思います。また、イノベーションを生みだすためには、組織のなかで、役割を細分化しないということも重要かもしれません。

HIP:組織内の役割を細分化するかしないかは、大企業とベンチャーの違いとしてよく言われていますね。

阪根:でも、じつはそうともいい難いと感じているんです。組織の規模が小さいベンチャーには役割の垣根がない、なんてことは幻想だと思います。とくにエンジニアは、性能を高めることに没頭するあまり、自分の得意分野に閉じこもりがちです。

実際、われわれもパナソニックさんから、「ベンチャーなのにセクションだらけじゃないか」と言われることがあります(笑)。でも、そういった課題に気づいたとき、歴史が浅いからこそ、それまでのかたちにとらわれない組織変更が可能になる。

もちろん、もともと権限を持っていたメンバーから反発が出ることもありますが、自分たちの会社の未来が懸かっているので、結局うまくいけば、納得感が出やすいんです。こういうフレキシブルさは、ベンチャーならではのメリットかもしれませんね。

とにかく、新しいものを生み出すとき、人は専門家になってはいけないと考えています。当然、それぞれに得意分野はあるべきですが、「自分はこの専門分野にしか取り組まない」ということでは、新しいものは絶対に生まれません。たとえばソフトウェア開発が得意なエンジニアが、配線の問題を解決するために知恵を絞るとか、混じり合うことが大事なんですよね。

「ランドロイド」では、大企業から来た方々も含めて、そうやって混じり合いながら開発を進めてきました。大変なことですが、結果が出れば、みんなポジティブマインドに変わっていきます。そこから新しいもの、つまりイノベーションは生まれるのではないでしょうか。

Profile

プロフィール

阪根信一(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長 阪根信一)

1971年生まれ。1999年、米デラウエア大学化学・生物化学科、博士課程修了。2000年に父が経営する高機能材料の研究開発会社、株式会社I.S.Tに入社し、2003年にCEOに就任。2011年にセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社を創業。カーボンゴルフシャフトや、鼻腔挿入デバイス「ナステント」、洗濯物自動折り畳み機「ランドロイド」などを開発・販売している。

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