IoT未開の地・建設業界にイノベーションを。ランドログが社会課題に挑む
明石宗一郎(株式会社ランドログ チーフデジタルオフィサー) / 関川祐市(株式会社ランドログ シニアマネージャー)
2018.07.10

会社設立から1年足らずで数百社からオファー。建設業界版「Amazon Go」の可能性も

HIP:「LANDLOG」は、現場の効率化以外にも有効なのでしょうか。

明石:たとえば、損害保険業界。これまでは災害が起こってから現場に入り写真を撮影していましたが、先ほど紹介したドローンを使うことで、日々の変化を克明にデータ化できるようになりました。たとえば、災害前の航空写真があれば、査定までの手間を省けます。また、自動車保険などで見られる、事故前の予防や予知に使用するといったアイデアも出はじめています。損保という分野に関しては、建設現場は遅れていましたが、今後大きく変わってくるのではないでしょうか。

また、ストッカー(工具や部品の保管場所)にカメラを設置して、LANDLOGで画像認識データを作成しておけば、日々の使用量も個数単位で把握できるかもしれません。それを工具や消耗品を販売するECサイトの売上データと組み合わせれば、その現場で必要になりそうなものを予想して補充しておいたり、ほかの現場と融通しあったりすることもできます。その際に人が立ち会ってチェックする必要もないので、最終的にはストッカーをAmazon Goのように無人で運営することができるかもしれませんね。

関川:「LANDLOG」には、これまで建設現場とは関係が薄かった企業も興味を持ってくれています。これは、私たちにとってグッドサプライズでした。会社設立から1年も経っていないのですが、すでに数百社からお話しをいただいています。現在はそこからいったん41社に絞って、どのような新しい取り組みができるかを検討中です。

大企業とベンチャー、2つの時計を持つ重要性

HIP:大企業が組んでジョイントベンチャーを立ち上げ、オープンイノベーションを目指すかたちは、意外にあまりない取り組みです。実際に働いてみて発見はありましたか。

関川:大企業が組んだとはいえベンチャー企業なので、大企業とまったく違うスピード感が求められることですね。これまでは時間がかかってもしっかりした良い製品を世に出すことが求められました。しかしランドログでは、「走りながら製品をつくりこんでいく」というスピード感が重要となっています。

明石:私たちは頑張っているつもりなのですが、ランドログの社長である井川からは、まだ遅いと言われていますね(笑)。社内では、大企業とベンチャー企業の時計、2つの時計があることを意識しろ、とよく言われています。

HIP:2つの時計とは、どういうことでしょうか?

関川:大企業の時間軸、ベンチャーの時間軸、どちらも共存させるという意味です。コマツ本体は、大企業の時間感覚のなかで、高性能で精密な重機を年単位の時間をかけて堅実に開発している。一方われわれは、建設業界に早急にIoTを普及させるため、多少の失敗は気にせず、よりスピードアップすることが求められている。役割は違っても、どちらも将来的には建設業界をよくするために動いている。どちらか一方の時間軸しか持っていなかったら、コマツのような大企業がベンチャーを立ち上げることはできなかったでしょう。

明石:ランドログと同じように、最近は大企業が新しい事業にチャレンジする際に、デジタル部門の新設やベンチャー企業との協業、イノベーションラボといったスペースをつくるケースが増えてきています。しかし、大企業側が、多少の失敗は気にせず、70%の出来でもいいからスピード勝負でさまざまな取り組みにチャレンジしているベンチャー企業のスタンスを理解できないままでいると、「投資利益や回収率はどうなる?」とか「その取り組みは、親会社にどんなメリットが?」などの不安が遅かれ早かれ湧いてしまいます。

そしてその社内の声は、ベンチャー企業側のチャレンジをも潰してしまうかもしれない。大企業には、ベンチャー企業の失敗を許容し、スピード重視の時計軸を認める覚悟が必要です。

関川:コマツもランドログで短期的な収益を上げようとは考えていないようです。大橋社長からは、「(ランドログは)とりあえず、夢だけを語っていろ」と言われます(笑)。

HIP:大企業とベンチャーは時計の感覚が違うので、子会社のベンチャーであっても、大企業側は長い視点で見守る必要があるということですね。ちなみにランドログのようなベンチャー企業が大企業から生み出されることについて、どのようなメリットがあると考えられますか?

明石:最大のポイントは、自前主義からの脱却だと考えています。日本の大企業には、製造から販売、サービスまでを自社だけで賄う自前主義が珍しくありません。しかし、それでは視野が狭くなってしまいます。より一層グローバル化していくこれからの時代のなかで生き残るには、かなり厳しくなっていくでしょう。

たとえば、コマツのような製造業の視点だけでは、損害保険とのコラボといった事業は起こりえなかった。また、そういったパートナー企業も、単独では建設業界に向けたサービス開発は難しい。コマツという大企業が支援しているからこそ、できることがあります。

また、視野を広げるという意味では現場に赴き、顧客の課題を見つける「デザイン思考」のアプローチも重要だと考えています。実際にコマツ以外の建機が使われている現場にも行きますし、建設現場の先進的な取り組みに意欲的なお客様の意見を取り入れながらサービス開発を加速しています。

関川:ランドログのような、大企業のリソースを使ったベンチャーは、非常に効率的です。人材も資金もある。なにより、すでに現場と顧客接点が見えている。それを大企業目線ではなく、別の視点で見ることで、本当の課題を知ることができ、その課題を解決するためのイノベーションを実現することができます。

HIP:大企業がベンチャー企業を生み出すことは、長い目で見るとメリットが多いのですね。

明石:そうですね。実際、いまはコマツだけでなく、私の出向元であるSAPジャパン、そして多くのパートナー企業にも少しずついいフィードバックが送れていると思います。また、「LANDLOG」について知りたいという海外からの問い合わせも増えてきています。日本だけでなく、海外の建設現場の課題解決にも役立つ可能性があるプラットフォームだと実感しています。

このように、世界中から注目を集めるプラットフォームをつくることができたのも、大企業の知見や技術を横断しつつ、ベンチャー企業としてフレキシブルに活動できているから。大企業から生まれたベンチャー企業が世の中を変えていく、その鍵となるのは「失敗を許容しスピードを妥協しない」ことかもしれません。

Profile

プロフィール

明石宗一郎(株式会社ランドログ チーフデジタルオフィサー)

外資系コンサルティング会社にて業務・ITコンサルタントとして官公庁、製造業、通信メディア、エンターテインメント業でプロジェクトリーダーを歴任。SAPジャパン入社後はソリューション統括本部にて主に製造業の顧客を担当、ソリューション提案やコンサルティング経験を持つ。2017年10月よりSAPジャパンからランドログに出向、同社のCDO(Chief Digital Officer)に就任。

関川祐市(株式会社ランドログ シニアマネージャー)

株式会社小松製作所スマートコンストラクション推進本部にて主にICT建機のサポートや現場の生産性向上に伴う調査を担当。2017年11月からランドログ業務をサポート。建設現場経験を活かし、現場との橋渡しを担っている。

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