INTERVIEW
ドラえもんのひみつ道具を現実に作る? その成功の秘訣とは 〜津田大介×パズル岡田行正×TASKO木村匡孝
岡田行正(株式会社パズル代表取締役)/木村匡孝(株式会社TASKO設計制作事業部・工場長)/津田大介(ジャーナリスト/メディアアクティビスト)

INFORMATION

2015.09.14

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ジャーナリストの津田大介氏がモデレーターを務め、さまざまな業界で新たなムーブメントを起こしているイノベーターの経験をシェアするトークイベント「イノベーション・エンジン」(森ビル主催)。第4回目となる今回は、2015年8月24日、「協業で未来に挑戦する~夢の製品づくり『四次元ポケットPROJECT』~」をテーマに開催された。

ゲストには、「四次元ポケットPROJECT」に携わった株式会社パズル代表取締役の岡田行正氏、株式会社TASKO設計制作事業部・工場長の木村匡孝氏の二人が登壇。プロジェクトを成功させた二人が考える、協業の秘訣とは?


取材・文:HIP編集部 写真:御厨 慎一郎

今の時代、1社で規模の大きいことをやろうとするのは難しい

「四次元ポケットPROJECT」は、複数の中小企業が協業し、それぞれが持つ技術やノウハウなどを組み合わせることで、『ドラえもん』の世界に登場する「ひみつ道具」を開発しようというプロジェクトだ。これまでに「セルフ将棋」、「望遠メガフォン」、「室内旅行機」を実際に作り出すことに成功している。

「室内旅行機」は、目の前まで迫る動物の姿や、真下から眺める打ち上げ花火といった、臨場感あふれる映像を部屋の中に映し出す機器。テレビCMから、ウェブサイト、イベントの制作まで幅広く手がけるパズルは、この「室内旅行機」の開発プロジェクトに携わり、主に映像コンテンツの制作を担当。機械やシステムの設計などを行う4社と協業しながら開発を行った。

岡田氏「『室内旅行機』は、日本国内に数台しかない特殊な魚眼レンズを3台利用して、360°の投影を可能にしています。撮影には、店頭で家庭用に販売されている民生機のカメラを複数使用しました。」

民生機が進化したことで、安価に高い性能の機材を揃えることが可能になった。また、民生機は機材自体も使いやすい。こうした状況は、新しい技術の習熟速度の向上や、プロジェクトにかけるコストが安価になるなど、様々なプラスの影響をもたらし、短期間でのプロジェクトのスタートを可能にしている。

岡田氏「民生機の性能が向上したことで、協業が非常にやりやすくなりました。一方で、機材が安価で高性能になることで、より多くの制作会社が参入しやすくなってきているという状況もあります。こうした時代において、1社で規模の大きいことをやろうとするのは難しい。幅広い企業と協業をするほうが、激しく変化していく時代のスピードにも合わせていきやすい、と改めて考えさせられたプロジェクトでした。」

岡田行正(株式会社パズル代表取締役)

協業相手に「指示」するのではなく「完成形を共有」する

一方のTASKOは、「セルフ将棋」のハードウェア開発を担当した。TASKOはアートユニット「明和電機」で活動してきた4人が、舞台制作・機械製作・デザイン・マネジメントというそれぞれの専門を活かして立ち上げた会社だ。

木村氏「作ろうとしていた『セルフ将棋』は、『ドラえもん』の本作中では登場せず、『ひみつ道具大辞典』にしか登場していないひみつ道具だったんです。空想をそのまま工場に持っていっても、形にならない。発想は制約を受けずに行うことが可能ですが、実際に作るときは様々な制約を受けるため、空想と技術の間にはハードルがあります。私たちの役割は、空想上のモノの作り方を考えること、発想を技術に翻訳することでした。」

まずTASKOが取り組んだのは、完成時のイメージを掴むこと。100円ショップで購入したマジックハンドを使って将棋を打ってみることから始め、ロボットの気持ちになり切ることで、必要な機能を洗い出していったという。完成時のイメージを持ちながら、実物大のモックアップを作って仕様をまとめていくことで、協業している人たちにも具体的なイメージを伝えていったそうだ。

イメージを伝えることは、他社と協業していく上で非常に重要だ。今回、筐体板金製作を担当した島田工作所、ロボットアーム部品制作を担当した堀越精機は、過去にもTASKOと仕事をしていたそうだが、「セルフ将棋」のプロジェクトを経験したことで関わり方にも変化が生まれたという。

木村氏「これまでは、部品を作ってもらう工場には完成図を見せず、図面を渡して作ってもらっていました。今回のプロジェクトを一緒に経験したことで仲良くなり、『図面になっていなくていいから、ポンチ絵でいいから見せてくれ』と言ってもらえるようになって。完成イメージを共有することで、色々とフィードバックをもらえるようになったんです。協業相手と完全に分業して『指示』をするのではなく、完成形のイメージを『共有』することで、日本のモノづくりはもっとよくなるんじゃないかと思います。」

木村匡孝(株式会社TASKO設計制作事業部・工場長)

新しいものが生まれるときは、誰かの強い思いがその裏にある

津田氏「プロデューサーとして協業をリードしていく上で、意識されていることはありますか?」

岡田氏「普段活動をしているフィールドが違うと、当然カルチャーも違うので、仕事のやり方が変わってきます。互いに違うカルチャーを理解するところから始めなければいけないのは大変ですね。プロデューサーとしては、『相手のフィールドで仕事をさせてもらう』という意識を持って、向こうのフィールドに飛び込んでいくことを大切にしています。」

ゲストの二人が協業時に意識していることとして語ったのは、オーダーの出し方だ。岡田氏は誠実に頼むことの大切さについて語り、木村氏は「中途半端に自分でやってから途中で人に渡すのではなく、最初の段階で人に頼むことを大切にしています」と語った。

津田氏「異なる文化圏で仕事をしているなど、協業するプレイヤー同士の間に差異があればあるほど、一緒になったときにイノベーションを生むための跳躍力が強くなるのかもしれませんね。協業を実現していく上ではプロデューサーがどのようにオーダーをするかが鍵だと、お二人の話を聞いて感じました。」

最後に、ゲストの二人が協業において大切な点について語り、イベントは幕を閉じた。

木村氏「協業するときは、ゴールへのビジョンを最後まで保てるかがとても大切です。協業のプロジェクトはいろんな人が入ってくるので、なかなか当初のビジョンが保たれないことが多い。誰かがゴールイメージを高い解像度で持っていないと、少しずつぼやけていってしまいます。『セルフ将棋』では、藤子・F・不二雄先生が描いた絵があったので、その解像度は落としてはいけないと強く意識していましたね。」

岡田氏「『協業』が手段ではなく目的になってしまう例は、至るところで起こっています。大切なのは、プロジェクトの目的は何だったのか、そして誰がやりたいプロジェクトだったのかを考えること。何か新しいものが生まれるときは、誰かのものすごく強い思いがその裏にあります。ごく小数の強い意思が、プロジェクトを引っ張っていくのだと思います。」

Profile

プロフィール

Guest

ゲスト

岡田行正

(株式会社 パズル 代表取締役/プロデューサー)
1992年TV-CM制作会社入社。映像制作とweb制作のプロデューサーを経て、2006年株式会社 パズル設立。メディア環境が変わりゆく時代の総合広告制作会社として、メディアにとらわれない広告やプロモーションの企画・制作・運営を行う。従来型のCMやweb制作においても新技術の導入に積極的。国内外の広告賞で受賞多数。

木村匡孝

(株式会社TASKO 設計制作事業部 工場長)
1981年、東京生まれ。2004年、多摩美術大学情報デザイン学科卒業。明和電機のアシスタントワークを経て独立、東京KIMURA工場を設立。エンジンやモータを用いたKIMURA式自走機シリーズ等、いわゆるバカ機械や誰に頼んでいいかわからない機械の受注/生産を手がける。2012年、総合制作会社TASKO Inc.を設立。ステージ、広告、アート、など他ジャンルとのコラボレーション/テクニカルディレクション等、電気と機械にまつわる様々な業務を活動の舞台としている。2014年より最新プロジェクトとして、柳澤智明(Rhizomatiks)らとマシーンバンド「MMI(Musical Mechanical Instruments)をスタート。

津田大介

1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。 大阪経済大学客員教授。 京都造形芸術大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。 テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。 NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主著に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

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