INTERVIEW
「ガッツだけでも賢いだけでもダメ」独立系VCが語る、成功する起業家の条件「Incubation Hub Conference」イベントレポート(後編)
仮屋薗 聡一(グロービス・キャピタル・パートナーズ)/堤 達生(グリーベンチャーズ株式会社)渡辺 洋行(B Dash Ventures)/松山 太河(East Ventures)

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2015.06.11

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ベンチャーキャピタリストは、スタートアップの起業家にとってどのような存在であるべきか?

松山氏

松山氏「みなさんの話しを聞いていて、投資するスタートアップのステージが違っていたり、フォーカスする事業領域が違っていたりして、とても多様性があるなと感じました。最初の質問としてまずはVCの起業家に対する役割についてお聞きしたいと思います」

仮屋薗氏「一つは経営者にとってのメンターとなること。スタートアップは市場の環境も変わりますし、大手の参入によって競争相手も変わります。事業計画も四半期ごとに変わるといっても差し支えないくらい変わります。そんな環境で大切になるのは、何を信念にやっていくか。投資家は起業家の信念がブレないようにパートナーとして起業家を支えます。もう一つは、投資先企業にとっての雑用係。
ベンチャーで働く人は、サービス開発と事業開発の専門家です。にも関わらず法務、人事、IR、PR、インフラなど経営にはやらなければいけないことが色々あります。投資家は成長ステージにおいてコアの事業開発以外の業務をバックアップする役割もあると思っています。」

渡辺氏「私がとくに気をつけているのは、投資先の会社がIPO型なのか、M&A型なのか
を意識して接し方を変えることです。IPO型は急かさず一緒に成長していくつもりで接します。M&Aを狙うときは少し異なります。買収してくれる先のことを意識して、最初に話を聞きに行きます。その会社にコンサル的に関わり、買った後のビジネスプランも考えたりします。3年後のM&Aは狙えないので、M&Aを狙う場合、期間は約1年ですね。共通しているのは、KPIを含めその会社のコアなビジネスモデルをしっかりと作ること。」

堤氏「私の場合、投資家のタイプを一言で表現すると伴走型です。投資家としてのキャリアもありますが、事業をやっていた経験が長い人間です。投資する場合は、自分も一緒に起業するくらいのつもりでいます。元々マーケティングのバックグラウンドがあるので、出資先には営業やマーケティングの型を叩きこみます。パートナーも2人なので、出資先は多くできませんが、一個一個に対するコミットメントや関与度合いは高いですね」

松山氏「VCは『シンジケーション』といって、別のファンドと同じラウンドで出資したり、投資先のスタートアップを次のステージへとつないだりと、別のファンドと組んでやることがあります。これはほかのヘッジファンドとは違うところかもしれません」

仮屋薗氏「競合ではなく、協業という意識なんですよね。狭い業界なので、投資家同士の仲が悪いと起業家に迷惑がかかってしまう。そうならないようにしないといけない」

渡辺氏「VCが協調して投資ができるようになってきたのはここ2、3年のことですよね。独立系VC同士であれば、自分たちで決断できる。ですが、サラリーマンとしてキャピタリストをやっているとその人の判断だけでは決められない。独立系が増えたことでお互いの合意だけでスムーズに投資を決められるようになったことは大きいと思います」

成功する起業家、成功しない起業家を見極めるために

松山氏「次の質問は、起業家のどういう点を見ているか。また、過去に投資してうまくいった起業家の共通点について。最初に私からお話しすると、ガッツがあって賢い起業家は強いなと思っています。どちらかだけではだめですね。」

渡辺氏「一番は逃げない起業家ですね。シード、アーリーステージだと、事業を変えることはよくあります。そのときに、資金が残っているので2回、3回と挑戦していく人間ですね。あとはマーケットが見えている賢い起業家。あとは執着心がある起業家ですね。ねちっこさというか。負けず嫌いだったり、自分の事業にかける想いが尋常じゃなく強い起業家は成功しますね。」

堤氏「今の話にかぶせるとエグゼキューション能力の高さですね。最近起業家になろうとする人たちはみんな賢いんです。でも頭が良いだけだとダメで。どれだけやりきれるか、業務に落とし込めるかが大事。投資判断するまでにやりきり力みたいなものは見ますね」

仮屋薗氏「最古参として言うと、IPOした後にさらに伸びる会社と失速する会社があるんです。その差は、起業家がどの目線で自分のゴールを設計しているかによって変わってくると思います。中長期的に世の中に対するインパクトを考えている人は止まらない。でも、途中で止まる人もいます。それは事業がある程度シェアをとって、ドメインでナンバーワンになったり、キャッシュフローが安定したりすると安心しちゃうんでしょうね。私たちが投資している分野はIT関連。事業のライフサイクルが3〜5年くらいでシフトしちゃうんですよね。常に次を考えて、業界とともに自分も進化していこうとする起業家はいいですね」

松山氏「起業家がどの程度の規模感を目指すかということも重要ですよね。時価総額1000億円以上の会社のことをユニコーン企業というんですけれど、それくらいを目指す起業家がいいですね。アメリカでVCが社会的に重要性の高い仕事となってきているのは、結果的に生み出された企業の規模が大きいからというのもあると思います。アメリカだと、VCが投資した会社は、Apple、Google、Microsoftなど現在の規模感が大きい。これらは兆円クラスの企業で、日本だと兆円まで達しているのは楽天とソフトバンクくらいです。兆円クラスの企業が日本からもっと登場してくると、スタートアップへの投資も、金融の本流になっていくのかなと思います。今はまだ本流ではなく端の印象を持たれている。アメリカだと金融界におけるVCのプレゼンスが大きい」

仮屋薗氏「アメリカだとスタートアップに年間2兆5000億円くらい投資されているんですよね。日本が1000億円くらいで20分の1くらい。もしかしたら生み出している価値もそれくらいなのかもしれない。もっと上を目指していかないと」

日本の起業家は世界で通用するか

松山氏「世界における日本人の起業家のクオリティはどう思いますか?」

堤氏「クオリティは高いですね。プロダクトをちゃんと磨いている。プレゼンテーション能力も高い」

渡辺氏「日本の起業家は海外と比較しても質は負けてないと思います。ただ、日本だけで閉じていると、何兆円規模の企業は作れません。そうなると北米に出ないといけない。まだ海外に進出して戦える起業家は多くはありませんが、昔と比べると全体的なレベルは上がっていると思います」

松山氏「モバイルの領域だったら、グローバルでも戦えるのではないでしょうか?メルカリなどは海外でも行けそうな感覚があります。昔、i-modeのときにモバイルコンテンツビジネスでアメリカのスピードを日本が抜いた瞬間がありました。日本はモバイルと相性がいいと思います。グローバル化さえうまくいけば、兆円クラスの企業が生まれるタイミングなのかなと思います」

渡辺氏「近年はgumiやGREEといった大きなベンチャーが海外で挑戦しています。勝ったり負けたりですが、こういった試行錯誤を繰り返しをやっていかないと、業界全体のノウハウになっていかない。業界にノウハウが蓄積されてくると海外で勝てるスタートアップがでてくる。今は勃興期かなと思いますね」

松山氏「20年くらい前と比較して起業家の数は増えていますか?」

仮屋薗氏「数は増えていて、質も高まっていると思います。複数回起業するシリアルアントレプレナーも増えていて、そのサポートにプロフェッショナルマネージャーがついている。国内については一定のレベルを越えたかなと感じているので、これからやらなくてはいけないのは、海外に挑戦して得た経験やナレッジを業界全体に浸透させること。業界全体でラーニングを早めていかないと世界のスピード感に負けてしまう」

堤氏「日本でどれだけトラクションがあっても、海外から資金を調達しようとするとディスカウントされちゃうんですよね。ディスカウントされないためには、アメリカのVCとのコネクションを強化する必要があるなと感じています」

日本のスタートアップエコシステムを成長させていくためにやらなければならないこと

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