ロンドンとニューヨークの事例から考える、オリンピック以降の東京の街作り — Innovative City Forumレポート(2)
リッキー・バーデット(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授) / ティム・トンプキンズ(タイムズ・スクエア・アライアンス代表)/ マイケル・キンメルマン(ニューヨーク・タイムズ建築批評家) ほか
2015.11.30

タイムズ・スクエアは、治安の悪い場所からいかにして世界的に有名な公共空間となったか?

続いて登壇したのは、タイムズ・スクエア・アライアンス代表のティム・トンプキンズ氏。同氏は、まずタイムズ・スクエアのこれまでについて紹介してくれた。新年のカウントダウンのイベントが開かれる場所として知られるこの交差点は、1980年代、アメリカで最も危険な場所とされていたそうだ。この印象を変えようとする公的セクターの動きがあった一方で、街の資産である景観を壊すべきではないと、市民グループが立ち上がったという。

トンプキンズ「企業の街となってしまうと、街の資産が壊れてしまいます。市民が立ち上がって、資産を壊すことに反対し始めました。企業の看板を外すことに反対したり、ブロードウェイの保存運動をしたり。」

ティム・トンプキンズ氏(タイムズ・スクエア・アライアンス代表)

その後、タイムズ・スクエアを綺麗にし、安全でフレンドリーにするための活動が続き、10年、20年が経過したあたりから、より高いクリエイティビティ、オーセンティックさに注目する気運が高まったという。そんな中生まれたのが、「タイムズ・スクエア・アライアンス」だ。その代表であるトンプキンズ氏は、自身の仕事はコーディネーションだと語る。

トンプキンズ「これまで行政は、民間やNGOなどとの一方通行のコミュニケーションがほとんどでした。長年繰り返す中で多少インタラクティブにはなったものの、まだまだ硬直的。そこで、私がコーディネーションを行う。地権者、行政、民間、NGOなどいろいろな人たちの間に入って調整するという役割を果たしています。」

トンプキンズ氏は、タイムズ・スクエアに関係する人たちの「パーセプション(考え方)」を変えつつ、他の団体とコラボレーションすることで、アートやクリエイティビティをタイムズ・スクエアに持ち込んだ。タイムズ・スクエアの場所を使って集団でヨガを行ったり、海外からアーティストを招聘してパブリックアートプログラムを開催したりと、他の地域では行われていないような取り組みを行い、ニューヨーカーが来たいと思うようなオーセンティックで新しい公共スペースを作ろうとしてきた。

タイムズ・スクエアで開催されたヨガ Photo by Times Square Alliance

トンプキンズ「公共スペースの改善に向けて建築家やアーティストを招いてアイデアを出しました。その中で、タイムズ・スクエアは37%のエリアしか歩行者に使われていないというデータがあったので、歩行者のためのスペースを増やしていこうと思った。ブルームバーグ市長がブロードウェイから車を締め出そうと宣言した後は、さらに歩行者のためのエリア作りを進め、タイムズ・スクエアに椅子やパラソルを置いてビーチのようにしたんです。」

ビーチのようにくつろぐことができるようになったタイムズ・スクエアには、さらに多くの人が集まるようになり、滞在時間も伸びていった。それに合わせて出店する人も増えるなど盛り上がりを見せていったが、良いことばかりではなかった。タイムズ・スクエアに集まる人たちを目当てにした商業活動が目に余るようになってきたのだ。

ビーチのようになったタイムズ・スクエア photo by Times Square Alliance

トンプキンズ「タイムズ・スクエアに集まった観光客に群がる人たちが現れました。悪質な声掛けなども増加し、そうした記事をメディアに書かれることが増えてしまった。さらに、トップレスの女性が商売を行っているという記事がタブロイドに掲載されたことで、問題はより深刻化。市長はこのスペースを取りやめるという方向に動きましたが、私たちはそれに待ったをかけました。タイムズ・スクエアがそのような状況になってしまったのは、公共空間のビジョンがなかったため。そこで私たちは商業的な売り込みを制限した上で、どのような公共空間が望ましいのか、ニューヨーカーが行きたくなるような場所はどんな所なのか、という議論を重ねるようになりました。」

タイムズ・スクエアが描いたビジョンは、商業的でありながら市民活動が優先され、過去と未来のバランスをとり、プログラムされつつもランダムの余地を残す、というもの。ビジョンを持つようになったタイムズ・スクエアは、以前にも増してさまざまな企画を行うようになり、クリエイティブな人たちからも企画が持ち込まれるようになった。

タイムズ・スクエアで開催された映画上映 photo by Times Square Alliance

タイムズ・スクエアは荒廃していたけれども資産があった。クリエイティブやアートの力を活かしてその資産に人々の注目を集め、人のつながりを作っていった。公共空間はただあるだけで価値が生まれるのではない。そことどう関わっていくかが重要になる。「公園のような空間は人々の利益になる。それはあるだけで良いのではなく、周囲との関係によって利益が生まれる」。トンプキンズ氏は『アメリカ大都市の死と生』で知られる都市学者ジェーン・ジェイコブスの言葉を引用し、公共空間との関わり方の重要性を説いた。

地価が上がりすぎたニューヨークで、どのように公共性を保持するか?

最後に登壇したのは『ニューヨーク・タイムズ』で建築批評を担当しているマイケル・キンメルマン氏。

ニューヨーク市は現在約830万の人が住んでおり、近い将来に900万人になるだろうと言われているが、増加した人を収容するスペースとその価格に課題が生じている。現在、アパートを一部屋購入するのに100万ドルはかかり、マンハッタンの一部では1億ドルを超えるような物件もある。ブルックリンであっても70万ドルほどの金額が必要とされ、貧しい人も多い一方で物件がなかなか手に入らない状態となっている。

キンメルマン「ニューヨークは多くの人たちにとって手が届かなくなってしまっています。これを手の届くもの、アフォーダブルな住宅を提供したいというのがニューヨーク市の考えです。」

マイケル・キンメルマン(ニューヨーク・タイムズ建築批評家)

こうした取り組みは、ブルームバーグ前市長時代から取り組まれてきた。前市長は15万戸の新築物件を供給してきたが、補助金などを用いて賃料を保証していても、そのコントロールをやめると市場価格となってしまうという課題があった。そのため、前市長の時代に供給されたアフォーダブル住宅の戸数は減少しており、新しくアフォーダブル住宅を供給しようという取り組みが行われている。

キンメルマン「新築や既存のアフォーダブル住宅を保存するなどして、20万戸ほどのアフォーダブル住宅を新しく作ろうとしています。そのためには土地も資金も必要なのですが、ニューヨークでは以前ほど建設が行われていません。政府が直接建設するのではなく、民間に税を優遇するなどのインセンティブを与えて建設してもらうのが最も効率が良いのではないかとされています。」

アフォーダブル住宅を増やすためのエリアとして選ばれたのは、ニューヨークの東側だ。東側にあるブルックリンの貧しいエリアには、公共住宅プロジェクトが多く、空き地も数多く存在している。こうした地域では市場価格のアパートにあえて住もうという人はいない。一方で、不動産の投機化によって土地の価格は吊り上げられてしまう。その結果、本来は守られるべき貧困層の人たちが追い出されるという結果が生まれているという。行政としてはどうしたらこうした地区の開発ができるのかに頭を抱えている。

キンメルマン「こうした貧困地域に住んでいる人たちは、より良い住宅ではなく、図書館、公園、学校といった機能が集まっている良いネイバーフッド(地域)を求めています。どうやったらネイバーフッドを包括した形で都市を開発できるのか。これが求められています。」

こうした地域に関する取り組みは、ニューヨークの各所で行われている。ペンシルバニア駅付近は、先述したロンドンのキングズ・クロス駅のような再開発が進んでおり、大規模な再開発プロジェクトが進められているハドソン・ヤードでは鉄道操車場の上部に緑豊かで超高層が集積する空間が作られる。また、ハリケーン「サンディ」によって被害を受けたマンハッタンの海岸線を強化するためのプロジェクト「Big U」では、都市を保護するために、通常の堤防ではなく住民のニーズにあった機能を持たせた堤防を設けることで、新たな公共空間を作り上げる。

「Big U」Photo by BIG – Bjarke Ingels Group

キンメルマン「高層ビルによって、スカイライン(風景)が形成されます。スカイラインをどう捉えるかによって、共通の資産が変わってきます。どこまでが公共空間で、その公共空間は誰のものなのか。それを議論することで、私たちの生活や私たちがどういう存在であるかも決まってくるのです。」

ロンドンとニューヨーク、それぞれの都市で起きている開発やエリアマネジメントの現状をゲストが語ってくれた。東京はこれからオリンピックを迎え、その前後でさまざまな開発が行われていくだろう。この先、大きな変化を迎える都市として、こうした世界の事例から多くを学び、自らの確固たるビジョンを持つべきではないだろうか。

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