INTERVIEW
ハウス食品の「かけるシチュー」誕生の舞台裏。消費者の本音を捉えた開発を探る
宮戸 洋之(ハウス食品株式会社 事業戦略本部 食品事業二部長)

INFORMATION

2018.01.16

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消費者の「本音」は何なのか? 多くの企業が、ユーザーリサーチやアンケートに取り組んでいるが、その答えを導き出すのは容易ではない。

2015年、ハウス食品もまた「消費者の本音」を探し、どんなシチューをつくるべきかを問い直していた。そんなときに出会ったのが、企業と消費者をつなげるプラットフォーム「Blabo!」だ。Blabo!は、オンラインでの「企画会議」を通じて、消費者の声をダイレクトに受け取ることができるサービス。

このサービスに可能性を感じたハウス食品は、Blaboとともに二人三脚のマーケティングをスタートさせ、2017年「シチューオンライス」という、シチューの新しい食べ方を提案する新商品を販売開始した。

消費者の隠れたニーズを掴み、そのニーズを満たす販促や商品開発を実施していくまでに、どのような過程があったのか。ハウス食品株式会社 事業戦略本部 食品事業二部長の宮戸洋之氏、株式会社Blabo代表取締役CEO 坂田直樹氏に話を聞いた。


取材・文 /市來孝人 写真 / 玉村敬太

いきなり「問題点」を聞いたところで答えは出てきません。まずは消費者の「モヤモヤ」を知ることが大切です。

HIP編集部(以下、HIP):まず、ハウス食品がBlaboと協働でマーケティングを行うことになったきっかけを教えていただけますか?

宮戸洋之(以下、宮戸):私はハウス食品に入社後、主にカレーなどの商品を担当してきたのですが、2015年に現在の役職に着任しシチューをメインで担当することになりました。当時、クリームシチューの収益が上がっておらず、その「立て直し」がミッションだったんです。

HIP:当時、クリームシチューに関してはどのような課題があったのでしょうか?

宮戸:2011年の東日本大震災以来、マーケットは内食回帰の傾向にあり、一時はシチューの売上も増加しました。しかしその後、一気に右肩下がりになったのです。リサーチデータを見ると、シチューを食べる人数は減っていなかったのですが、食べる回数が減っていることがはっきりと出ていました。しかし、データからはその理由はまでは見えてきませんでした。

これまで通りのリサーチ、商品開発では乗り越えられない「壁」のようなものがある。原因はわからないけど、何かを変えなければいけない。そんなときに、消費者と直接コミュニケーションをして「本音」を聞くことができるBlabo!を知り、突破口になるかもしれないと、坂田さまにお声がけしました。

宮戸洋之氏(ハウス食品株式会社 事業戦略本部 食品事業二部長)

HIP:具体的に、Blaboさんにはどのようなオーダーをしたのでしょうか?

宮戸:やはり最初にお願いしたのは、「クリームシチューを食べる機会が減っている理由を知りたい」ということでした。

坂田直樹(以下、坂田):そうでしたね、ご相談いただいたときのことははっきりと覚えています。弊社では「商品開発のためのアイデアが欲しい」というご依頼をいただくことがあります。ただ、いきなりアイデアを募集したところで、簡単に答えが出てくる訳ではありません。まず消費者の「本音」を聞くプロセスが必要なのです。

そこで、ハウス食品さんにはBlabo!で「シチューにまつわる「モヤモヤ」を大募集!いったいどんな「モヤモヤ」で、どうすれば解決できる?」というオンライン企画会議を開き、参加ユーザーに質問を投げかけてはどうかと提案しました。

Blabo!上に開設されたユーザーからのモヤモヤを募集するプロジェクトページ。Blabo!では企業の投稿にユーザーが意見を寄せるかたちで「企画会議」が行われる

HIP:モヤモヤ……ですか? ハウス食品の商品への不満や、改善点を募集するのではないのでしょうか?

坂田:じつはアンケートなどで「問題点」を聞いても「何もない」といった回答が多いのです。だから問題点を知るために、消費者自身もその正体がわかっていない「モヤモヤ」を聞く。そのなかにこそインサイト、つまり「本当の声」があるのではないかと考えています。

坂田直樹氏(株式会社Blabo代表取締役CEO)

坂田:そのためには「問いのデザイン」が重要になります。「この商品のダメなところは何ですか?」ではなく、「本当はどんな食卓にしたい?」というように、消費者の視点、日常に寄り添って、未来を描く答えを導くことが大切なんです。すると「私はこうしたい」といった具体的な答えが出てきます。

宮戸:おっしゃる通りです。この企画会議では、「私が感じるモヤモヤは米とシチューがあまり合わないことです」「米食である日本人の食文化に合わせ、『シチュー=ご飯と合う』という文化をつくってはどうでしょうか?」という意見があり、企画会議賞として選出させていただきました。じつはこのアイデア以外にも多くのユーザーからご飯との食べ合わせに関する意見が集まり、そこに他ユーザーが反応するという事象が起こりました。そのため、ご飯周りのモヤモヤにインサイトがあるのではないかという確信を得ました。

HIP:このような消費者の声は、いままでの調査では出てこなかったものなのでしょうか?

宮戸:オープンアンサー式のアンケート調査で同じような答えはありましたし、弊社としてもそうした食べ方をする方が少なからずいらっしゃることは認識していました。ただ、シチューにまつわる課題の本質に繋がっているものとは捉えていませんでした。しかし、そこに核心があったんですね。

「シチューをご飯にかけるか、わけるか」という行為の裏側には「シチューはご飯に合う、合わない」という消費者の認識の違いがあることが、Blabo!の企画会議を通じてわかったのです。ここから最終的に我々が掴んだインサイトは「シチュー1品だとご飯のおかずとして物足りない。なのでもう一品つくらないといけない」という主婦の声でした。

坂田:これはBlabo!というオープンな場で議論するからこそ発見された意見だと思います。Blabo!に寄せられた意見に対して、他のユーザーがコメントできるのですが、そこで「じつは私も」という声が上がり、可視化されていったんです。それによって、これまで恥ずかしくて「かけシチュー」を食べていると言えなかった方も、同意するかたちで、本音を伝えてくれました。

宮戸:2015年に生まれたこのアイデアをもとに、2016年には「シチューとごはん わける?かける?」というWeb投票企画や「わけかけシチュー」動画投稿コンテストが実現し、2017年「シチューオンライス」という商品発売が実現しています。

「ご飯にかけるシチュー」は、どのように社内の反対を乗り越え、商品化されたのか?

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