INTERVIEW
クックパッドとローソンは、ビッグデータをどのように活用しているのか?— 「HIP Conference vol.2」イベントレポート(1)
中村耕史(クックパッド株式会社 トレンド調査ラボ 調査室長) / 小林敏郎(株式会社ローソン 営業戦略部 マネジャー)

INFORMATION

2015.12.10

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HIPとビジネス系ニュースアプリ「NewsPicks」のコラボレーションイベント「HIP Conference」。初回のテーマ「モータリゼーション2.0×都市」に続き、第2回目は「消費×ビッグデータ×センス」というテーマで開催された。テクノロジーの進化やビッグデータの発展により、科学的に消費の分析が可能になっている一方で、これまで以上に人間的な「センス」も重要になってきている。今回のHIP Conferenceでは、「ビッグデータ」「センス」それぞれのキーワードにおける第一人者がゲストとして登壇した。

「ビッグデータと消費」のセッションに登壇したのは、クックパッド株式会社 トレンド調査ラボ 調査室長の中村耕史氏、株式会社ローソン 営業戦略部 マネジャーの小林敏郎氏の二人。モデレーターは、ifs未来研究所 所長の川島蓉子氏が務めた。


取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎

購買データとレシピ検索データの連携で消費者の行動を掴む

まず初めに、クックパッド株式会社 トレンド調査ラボ 調査室長の中村耕史氏が登壇した。「クックパッド」は言わずと知れた日本最大の料理レシピのウェブサービス。想像するだけで膨大な情報が集まっていそうだが、実際にクックパッド株式会社では、大きく分けて2つのデータ活用を行っているらしい。

ひとつは、「クックパッド」上のデータを分析し、ユーザー向けサービスの向上や、最適な広告提案・配信といった自社サイトにおけるデータ活用。もうひとつは、「データの販売」だ。検索データから消費者の食のニーズをデータベース化し、食品メーカーなどに対して販売する「たべみる」という事業を展開している。

中村耕史氏(クックパッド株式会社 トレンド調査ラボ 調査室長)

中村「料理名、調理器具名、調味料名だけではなく、『グルテンフリー』や『糖質制限』といった検索ワードからも消費者のニーズを掴むことができます。たとえば、年代別に分析していくことで、若い人ほどグルテンフリーへの関心が高いといった傾向もデータから読み解くことができるんです。」

その他にもたとえば、「クックパッド」の検索ワードから、メイソンジャーや炊飯器を使った料理が人気といったトレンドの傾向を掴むことができるという。最近のトレンドでは、シェアしたくなるような名前や料理写真のレシピや、手軽で作り置きできるもの、定番の中に新しさを備えたものなどが人気となっているそうだ。

「たべみる」の注目キーワード(キーワードレーダー)。季節性✕昨対比のレーダーチャートでトレンドの把握や指定時期に適切なキーワードの発見ができる

最近では、データの活用を更に押し進めるために、購買データとの連携のテストも始めている。

中村「購買データとレシピの検索データを連携させることで、より詳細な消費者の行動を掴むことができます。たとえば、あるブランドの和風だしを購入した消費者がどのようなレシピを検索しているのかを調べると、やはり和風のレシピを多く検索していることがわかります。」

一種類のデータからではわからないことも、別のデータと組み合わせることで、消費者のより詳細な行動データが取得できるようになっていく。そのデータを蓄積していくことで、自分たちが持っているデータへの理解度が深まることにもなる。多くの企業がデータを活用するようになり、互いにデータ連携をし始めれば、ユーザーにとってさらに便利なサービスが提供されることになるだろう。

データ分析で大切なのは、その分析に愛があるか

続いて登壇したのは、株式会社ローソン 営業戦略部 マネジャーの小林敏郎氏。ウェブサービスであるクックパッドが持つデータとはまた異なり、ローソンが得ているのは実店舗からのデータだ。現在、全国に約12000の店舗を持ち、1店舗あたり1000名の顧客が毎日訪れ、そのうちの約5割がローソンのポイントカード「Pontaカード」を利用しているという。

小林敏郎氏(株式会社ローソン 営業戦略部 マネジャー)

ローソンでは売り場力強化に現在力を入れており、この強化に向けてデータを活用しているそうだ。

小林「今年度からローソンはセミオート発注という仕組みを導入しています。これは、Pontaのデータを活用して、お店の発注を半自動化するというもの。全国から集まる10億8000万件のデータを分析して、それぞれのお店に対して商品の発注量を指示するのですが、この仕組みを導入した店舗は、売上が3%、利益が2%向上しています。」

ローソンが10年ほど実施してきた顧客調査によれば、人々はコンビニに「近さ」だけではなく「美味しさ」などの商品の質も求めるようになってきているという。そこで、ローソンでは「美味しい」商品を開発するためにもデータを用いはじめた。1日あたり500万人分の購買データが集まるので、売上の規模やよく購入する世代・性別などがわかるように表示したポジショニングマップを作り、それを見ながら商品開発を行っているそうだ。

ただし、実店舗からのデータだけでは、競合との比較や、消費者の求めているものを汲みとって新しい価値を作り出すといったことには不十分だ。そこでローソンでは、+αを求めてあるデータを購入している。それは、食に関するアンケート調査だ。

たとえば、ミートソースのパスタについて消費者が何を言っているのかを分析してみる。すると、最近は麺よりもソースを重視する消費者の声が多いことがわかったため、パスタの麺ではなくソースを商品開発することになったという。

小林「リサーチの部署は他の部署から相談されることが多い。私たちが最も大切にしなくてはならないのが、その分析に愛があるか、ということです。調べる人間に情熱がないと、調査は深いものになりません。そして、思いを込めてリサーチをしていれば、その調査は人を動かします。分析部隊と実行部隊がしっかりと連動できるよう、リサーチには情熱が必要なのです。」

センスはデータによって磨かれる

二人の登壇に続いて、パネルディスカッションに。モデレーターの川島氏から「トレンドや売れ筋をどのように掴んでいるのか」という質問が投げかけられた。

中村「基本的には『たべみる』の検索頻度と、人気のレシピを見ながらです。また、『クックパッドニュース』という、クックパッド自身が配信している食トレンドのニュースに対する読者の反応や、『じわじわ検索』と呼んでいる社内用のボリュームはあまり大きくないものの、検索数がじわじわ伸びてきているキーワード一覧なども参考にしています。」

小林「デジタルでのデータ分析ももちろん重要ですが、それに加えて色々な人達と交流し、『今、何が来ているのか』という情報が自然と入る状況を作ることを意識しています。どんな会社でも、とりあえず商談してみることをモットーにしていますね。どんなものが商売になるかはわからないですし、どんな新しい情報が仕入れられるかわかりませんから。」

最後に、川島氏は「ビッグデータとセンスのバランスについてはどう思うか」とゲストの二人に投げかけた。

小林「センスは情報によって磨かれるんだと思います。優秀な人は、自分の中にデータがたくさんある。集まったデータがセンスとして発露している人が、突飛なことを言ったりするんだと思います。『ローソンは健康に力を入れるべきだ』と業界を先んじて主張していた元ローソン社長の新浪剛史さんは、まさにそんな人でした。」

中村「センスを言い換えるなら、仮説の質と量だと思っています。これまではよほど勘の鋭い人でないと筋の良い仮説を出すことは難しかったですが、ビッグデータが仮説の構築を助けてくれるようになり、その仮説に対する検証のハードルも下げてくれているため、センスを鍛えるチャンスが増えていると言えると思います。」

データの蓄積がセンスを育む。もしそうなのであれば、ビッグデータの収集が可能になった現代はこれまで以上にセンスを磨きやすい時代だといえるだろう。

これまでHIPでインタビューしてきた経営者の方々からも、「データの取得は最低限必要なこと」というコメントが多かった。データをどう蓄積し活用していくかは、既にビジネスにおいて避けては通れない道になっている。

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