INTERVIEW
タクシーと駐車場。老舗企業が語る、ITによる自動車サービスの未来— 「HIP Conference vol.1」イベントレポート(3)
川鍋一朗(日本交通株式会社 代表取締役社長)/西川光一(パーク24株式会社 代表取締役社長)/琴坂将広(立命館大学経営学部国際経営学科准教授)

INFORMATION

2015.09.09

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HIPとビジネス系ニュースアプリ「NewsPicks」によるコラボレーションイベント「HIP Conference」の第1回目が2015年7月27日に開催された。初回のテーマは「自動車」。「『モータリゼーション2.0×都市』〜都市におけるモビリティの可能性〜」と題し、3つのセッションが繰り広げられた。

「モータリゼーション2.0のサービス」のセッションには、日本交通株式会社 代表取締役社長の川鍋一朗氏と、パーク24株式会社 代表取締役社長の西川光一氏がゲストとして登壇。モデレーターは、立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広氏が務めた。タクシー、駐車場といった自動車に関連するサービスを提供し、ITを活用した新たな取り組みにチャレンジし続ける2社がサービス展開の現状を紹介した。


取材・文:HIP編集部 写真:豊島望

「お客様にとっての良いサービス」を中心に、ビジネスモデルを磨き続ける

セッションは、日本交通の川鍋氏がタクシー業界の歴史を振り返ることから始まった。

川鍋氏「ひとりの人間が一台の車に乗ってお客様を送迎する。タクシーのビジネスモデルは100年ほど前から変わっていません。おかげさまで、日本交通も3代目の私の代に至るまで継続しています。Uber(アメリカ発のタクシー配車サービス)が日本に上陸して色々と騒がれていますが、お客様にとって何が良いサービスなのかを真ん中に据えて、ビジネスモデルを磨き続けるしかないと考えています。」

川鍋一朗氏(日本交通株式会社 代表取締役社長)

祖父が1928年に創業したタクシー会社を継いだ川鍋氏。創業以来持ち続けてきたサービス第一の考えを受け継ぎ、「タクシーは『拾う』から『選ぶ』時代へ」と目指して試行錯誤を重ねてきた。「電話を1秒でも早く繋がるようにしたり、施設に専用の乗り場を用意したり、少しずつやれることをやってきた」と川鍋氏は語る。

川鍋氏「道で手を挙げてタクシーを拾うのも良いですが、せっかくなら、選んで乗っていただきたい。選んでもらえると、タクシーの乗務員もやる気が出ます。iPhoneが登場して、ドミノ・ピザのiPhoneアプリのことを知りました。地図上に置いたピンの位置にピザを配達することができる。これを参考にして開発したのが『タクシー配車アプリ』なんです。」

iPhoneが登場した当時から、川鍋氏はスマートフォンでタクシーを配車できる「タクシー配車アプリ」のアイデアを思いつき、開発を行ってきた。

川鍋氏「好評をいただけてとても嬉しいです。便利なので浸透スピードも早かったので、これは時代が変わるだろうな、と思いました。利用可能エリアを増やしてほしいというお話もたくさんいただいていて、47都道府県140社のタクシー会社とチームを組んで全国展開しています。」

シリコンバレーの天才エンジニアはいないけれど、現場を知っているタクシーの仲間はいる

日本交通の新しい取り組みは、配車アプリに留まらない。2013年からは、家電ベンチャー企業のCerevoと組み、タクシーの運行管理に必要なドライブレコーダーを自作・販売している。

川鍋氏「タクシーは、200万円ほどの車を買って、100万円ほどの装備をつけるんです。無線システムだけで43万円します。メーター、印刷機、決済システムなどの専用設備が必要なので、コストだと思って辛くても購入してきました。そのうち、こうした設備は自社で作れるんじゃないかと考え始めたんです。それで作ったのが『ドライブレコーダー』です。他で買うと5万円かかる装備が、自社で作るとなんと3万円。更に、この設備が欲しいという仲間のタクシー会社に販売すると、利益が出る。いきなり上手くいったわけではなく、試行錯誤を重ねながら、ハードウェアやソフトウェアのオペレーションや文化の違いを日々学んでいます。」

開発したアプリを育て、新しいハードウェアをどんどん開発していくために、日本交通はこれからも仲間を募集していきたいという。

川鍋氏「周りにシリコンバレーで活躍しているような天才エンジニアはいないけれど、現場を知っているタクシーの仲間はいます。タクシーの仲間たちで必死に汗をかいて、お客様に少しでも素敵なアプリを提供できるように取り組んでいる最中です。」

外部に委託するより、自分たちでより良いサービスを提供したい

川鍋氏のプレゼンテーションを終え、続いてパーク24の西川氏のプレゼンテーションに。時間貸駐車場『タイムズ』を中心とした駐車場事業や、今注目を浴びているカーシェアリング事業についての紹介から始まった。

西川氏「パーク24という社名よりも、『タイムズ駐車場』をご存知の方も多いのではないでしょうか。パーク24は1971年に創業し、これまでずっと駐車場関連の仕事をしてきた会社です。最初の20年間は駐車場の機械を販売し、1991年から駐車場運営企業に転換しました。現在、タイムズ駐車場の数は約1万5千件弱、台数で言うと約50万台という規模を運営しています。次に事業の柱として育てていきたいのはカーシェアリング。全国で6700カ所にカーシェアリングの車が置いてあり、1万2千台ほどの台数を運営しています。つい先日、会員数が全国で50万人を超え、取材も多くなってきています。」

西川光一氏(パーク24株式会社 代表取締役社長)

駐車場事業に加えて、カーシェアリングサービスにも乗り出したパーク24。この他にもいくつかのサービスを展開している。

西川氏「現在、グループ会社のタイムズモビリティネットワークス株式会社がレンタカーサービスを運営しています。これまで会員と駐車スペースは持っていたものの、自動車とオペレーションのノウハウがありませんでした。そこで、レンタカー事業を展開していたマツダレンタカーを2009年に買収し、ノウハウを社内に持つことができました。また、カーシェアリング、レンタカーなどのサービスを提供しているうちに、車に関わる緊急時対応の必要性が高まったため、ロードサービスも展開しています。外部に委託するよりは、自分たちで運営した方がより良いサービスが提供できると考え、2011年にロードサービス事業を行ってきた株式会社レスキューネットワークを子会社化しました。」

ITシステムがなければ、現在のパーク24の規模感は出せなかった

新しい事業を展開し、そこで新たな可能性を発見し、また新たな事業へ。パーク24は買収も行いながらモビリティサービスに関する事業の多角化を図ってきたが、そのキーとなるのがITシステムであるという。

西川氏「いくつかのサービスを展開していく中で、キーとなるのはITシステムだと感じるようになりました。現在、社内システムは「TONIC(Times online network and information center)」というものを使用していて、このシステムを通じてすべての駐車場、カーシェアリングの車、レンタカーが、オンラインで繋がっています。駐車場を運営する上で絶対的に必要だろう、ということで導入を開始したのが2003年。導入以前はデータが一切取得できなかったので、現地に行かないと駐車場がちゃんと稼働しているかわからないし、収益がどれくらいあるかもわかりませんでした。」

以前は、未払いで駐車場を出てしまっているケースがどの程度発生しているかも不明だったという。

西川氏「あるときからデータを取り始めたところ、料金がとれていないことによる損失が全体の15%も占めていたことがわかったんです。売上が200億円ほどの規模だったから、要は年間30億円の損失があった。それくらいのロスがあるんだったら、設備投資してその損失を小さくすれば収益的には改善されるので、年間の純利益が30億円弱のときに30億円の設備投資をしました。」

パーク24はぶつかった課題に対し、「駐車場をオンライン化する」というアプローチで解決した。同社のIT化に向けた動きはこれに留まらない。スマートフォンアプリ「タイムズ駐車場検索」では、リアルタイムの満車空車情報、駐車場の位置情報、料金体系などがわかるようになっている。

西川氏「TONICがなければ、現状のパーク24の規模感は出せなかったでしょう。カーシェアリングサービスでは、すべての車の稼働状況をシステムを通じてセンターが把握しているため、可能になっているサービスがいくつも存在します。データを取得できると、たとえば、都内で急ブレーキを踏む人が多いスポットがわかります。そうすると、注意が必要な場所であることをデータとして提供することができる。こうしたドライバーへのデータ提供も今後やっていく予定です。」

データを収集し、管理できるようになったことで提供可能なサービスの幅が広がってきている。パーク24は、交通ICカードで鉄道に乗った人がタイムズ駐車場やカーシェアを使うと、利用料金の優待サービスを受けることができるといった、他の交通機関との提携も進めているという。

メーカーがバラバラに情報収集するのではなく、みんなが使える共通の情報インフラを作っていくべき時期

琴坂氏「両社とも、幅広くサービスを展開し、新しい取り組みを次々と行われていますよね。モータリゼーション2.0の時代になり、『Uber』のような米国発のサービスだったり、『あきっぱ』のような新しい駐車場共有サービスだったりが出てきて、挑戦を受ける立場でもあるのかなと。ハードウェアやシステムなど、両社の強みはたくさんあると思うのですが、強みをどう生かして、新しい方向に進んでいこうと考えているのでしょうか?」

川鍋氏「Uberはライバルですよね。ただ、Uberが上陸して、『かっこよく呼べて、かっこよく払えると嬉しい』という顧客メリットがあることもわかりました。そのメリットは自分たちも提供しつつ、お客様がそれでもUberを使うのであれば、日本交通が提供している価値に劣っている部分があるはずなので、そこを必死に考えて補っている最中です。いかにお客様に良いサービスを提供できるかが勝負なので。」

琴坂氏「先ほどのお話の中でもありましたが、実際にデータをどのように取得して、どのように活用しているかお伺いしたいです。」

川鍋氏「いろいろなデータが取れますが、そのデータで何ができるのかという事例はまだ少なく、今まさに事例を作ろうとしています。たとえば、1時間以内にお客様が乗った場所がアプリでわかる『ホットスポットマップ』を作成したので、新人乗務員に迷ったら赤く表示されているホットスポットを目指していくように指導してみました。これを10名くらい試したところ、10%ほど売上が上がりました。ただ、この仕組みはまだビジネスモデルが確立していないので、こうした技術を使ってどうビジネスにするかが課題ですね。既にできることは数多くありますが、その事業を描き、交渉する人がいません。この役割を担うリーダーが必要ですね。」

琴坂氏「なるほど。西川さんはどうですか?」

西川氏「今は各自動車メーカーがバラバラにデータを集めているので、どこかにデータが集約されるといいですよね。統一した規格で情報が集約されている環境があれば、あとはどうやってビジネスにするかを事業者が考えるので。」

琴坂氏「データを集約すると、そこに収益可能性が生まれてコントロールしようとすると思うのですが?」

西川氏「コントロールしようとするから、普及していないんだと思います。インターネットがこれだけ普及した理由も、コントロールしてないからじゃないですか。セキュリティ上、バージョンアップなどの管理はしても、誰かがコントロールしているわけではない。自動車業界も、データの収集と収益化を自分たちだけで行おうとすると、あまり普及せずに終わってしまうと思います。みんなが使える、共通のインフラを作るということを真剣に考える時期なのかなと。」

川鍋氏「色んな人が答えにたどり着こうと努力していますが、リアルなデータを持っている現場と、研究・分析したい人たちとの間に、相当文化の違いがあるんですよね。いきなり現場に行って、『ビッグデータが〜』なんて話をしても聞いてもらえない。お互いに相手のことを勉強することがこれから必要になるんだと思います。」

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