INTERVIEW
金融×テクノロジー。フィンテック企業はパラダイムシフトを起こせるのか? 〜bitFlyer加納裕三×Misoca豊吉隆一郎×津田大介
加納裕三(株式会社bitFlyer 代表取締役)/豊吉隆一郎(株式会社Misoca代表取締役)/津田大介(ジャーナリスト/メディアアクティビスト)

INFORMATION

2016.01.12

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ジャーナリストの津田大介氏がモデレーターを務め、様々な業界で新たなムーブメントを起こしているイノベーターの経験をシェアするトークイベント『イノベーション・エンジン』(森ビル主催)。第5回目は、2015年12月2日に『フィンテック(金融×技術)が変える未来のマネー』をテーマに開催された。

フィンテックとは、「金融(ファイナンス)」と「技術(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、スマートフォンやビッグデータなどの技術により発展した金融サービスのことだ。ゲストには、それぞれフィンテックに関するサービスを開発している株式会社bitFlyer 代表取締役 兼 日本価値記録事業者協会 代表理事の加納裕三氏と、株式会社Misoca 代表取締役 豊吉隆一郎氏の二人が登壇。大手企業からの注目も集め始めた「フィンテック」領域で活動する起業家たちは、どんな未来を見据えているのだろうか。

取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎

金融パラダイムシフトのカギ「ビットコイン」とは?

世界では「お金」に関するテクノロジーが目覚ましい発展を見せている。会計や金融を始めとした多くの便利なサービスが登場しており、Twitterの創業者にして現CEOであるジャック・ドーシー氏が創業したモバイル決済端末Squareも、お金に関わるテクノロジー、つまりフィンテックだと言えるだろう。

中国のWeChat(微信)や日本のLINEといったメッセージアプリでも、送金や決済が可能になるなど、スマートフォンやソーシャルテクノロジーの進歩・普及は、ますます変化を加速させている。こうしたお金に関するテクノロジーの中でも、ひときわ注目を集めているのが、仮想通貨「ビットコイン」だ。ビットコインは中央当局や銀行を介さず誰もが参加できる電子マネーのひとつ。無数にいる利用者の端末をそれぞれ個々でつないで経由するSkypeなどと同じ仕組み「P2Pネットワーク」で運営されているため、個人から個人へ直接送金でき、銀行や通貨交換所を通す必要がない。また、決まった手数料を支払う銀行とは違い、手数料の額も自分で決められるのだ。

加納裕三氏(株式会社bitFlyer 代表取締役 兼 日本価値記録事業者協会 代表理事)

津田「ビットコインは金融データがインターネット上に分散して存在していて、中央サーバーがなくてもやり取りすることができるそうですね。つまり、世界では当たり前に行われていた個々の端末が行き来する通信技術が、通貨で起こるとしたらどうなるのか、と考えればわかりやすいですか?」

という津田氏の問いかけに答えたのは、株式会社bitFlyer 代表取締役の加納裕三氏だ。同氏は、ゴールドマンサックスに入社後、2014年1月にビットコインに関するサービスを運営する株式会社bitFlyerを創業。日本価値記録事業者協会(JADA)の代表理事でもあり、日本でビットコインを普及させる第一人者だ。

加納「そうですね。当社のようなビットコインを扱う事業者も、ビジネスモデル自体は外国為替や金取引に似ています。ただ、ビットコインは値動きが激しく、購入したビットコインが1日で10%値が上がることも珍しくありません。もちろん大幅に下落することもあります。」

ビットコインに関するベンチャーは世界中で約1000社あり、日本にも十数社ほど存在している。bitFlyerは資金調達を実施しており、資本金は8億円を超える。これは仮想通貨に関する世界中のプレイヤーの中でも20位ほどの規模だ。

bitFlyerが運営するビットコイン販売所「bitFlyer」では、ユーザは日本円で入金し、ビットコインを購入する。販売所の「bitFlyer」が売値と買値をサイト上に提示し、購入したビットコインは売却もできるようになっている。この売値と買値の差であるスプレッドと手数料で、同社のビジネスモデルが構築されている。

ビットコインを支える技術、「ブロックチェーン」

ビットコインを支えているのは、「ブロックチェーン」と呼ばれる技術だ。ビットコインでは、残高や決済のやりとりを記載した元帳の1ページ単位を「ブロック」と呼ぶ。それがすべてつながった状態を「ブロックチェーン」という。これにより、過去の取引がすべてオープンになり、改ざんできない透明性の高いプラットフォームができあがる。また、元帳の内容を全世界の利用者が閲覧できるのもビットコインの信頼性が担保される理由の一つにもなっている。

加納「ビットコインとブロックチェーンは、切り離して語ることはできません。ビットコインは、ブロックチェーンの技術を活用した通貨であると言えます。」

津田「ブロックチェーンはこれまでの金融の概念をひっくり返すと言われていますが、これまでの技術と最も異なると言われている点はどういったところになるのでしょうか?」

加納「ブロックチェーンがパラダイムシフトを起こすと言われている理由は、いくつかあります。ひとつは、金融サービスの開発コストが十分の一から百分の一にできると言われていること。現在、金融機関は年間数千億円ものIT投資を実施していますが、これが格段に安くなる可能性がある。もうひとつは、金融におけるプロトコル(通信の手順や約束事)を一括できる可能性があること。現在、円やドルなどの既存通貨のほかに、ビットコイン、マイルなどの様々なプロトコルが存在していますが、それが将来、1つにまとまる可能性がある。そして最後は運用における安定性。ビットコインはまだ一度も落ちたことがありません。」

様々な可能性を感じさせるビットコイン。その領域に取り組むbitFlyerは、今後どのように活動していくのだろうか。

加納「これから先は、ビットコインの会社というより、ブロックチェーンの会社としてやっていきたいと思っています。企業理念にも載せていますが、私たちはブロックチェーンで世界が変わると信じています。より広い範囲に応用できるブロックチェーンを自らの手で実装し運用していくことで、よりよいものをつくりたいと考えています。」

ブロックチェーンの技術は、ビットコイン以外にも応用される可能性がある。

加納「ブロックチェーンは、基本的にはお金を動かすために設計されていますが、データの書き込みや存在証明などが可能です。これで電子印鑑もできるし、契約もできるかもしれない。こうした可能性を感じるために、実際にみなさんに触ってみてほしいですね。」

個人事業主からの視点で、受発注のコストを削減するサービスを提供

もう一人のゲストは、株式会社Misocaの代表取締役である豊吉隆一郎氏だ。

豊吉「Misocaは請求書や見積書を作成し、管理・送付が簡単にできるサービスで、ウェブブラウザとiOSアプリで提供しています。私はもともと個人事業主で、毎月請求書を送るのが手間だったんです。この手間を日本中の人が体験しているのは変だなと思い、サービスを開発しました。『Misoca』という名前は、月末作業ということで『晦日』から名づけています。」

Misocaが解決したいと考えているのは、やりとりが煩雑になっている企業間の請求業務。工程の70%ほどがアナログで行われ、見積書をFAXで送り、相手側が注文書に書き換えてFAXで送り返す。その後、納品書・請求書・領収書を送付するという複雑さ。「企業間の請求関連業務がMisocaで完結すれば、世の中にいい影響を与えられるのではないか」と、豊吉氏は考えたという。

豊吉隆一郎氏(株式会社Misoca代表取締役)

豊吉「現在は、登録事業者数が7万件ほど。1年で約4倍に成長し、直近では毎月4000の事業者が登録するというペースで成長しています。請求発行総額は100億円ほど。数年前は、『そんなものをクラウドサービスに預けるなんて』と言われていましたが、ここ最近は世の中の意識が変わってきていると感じます。」

Misocaは基本的に無料で利用でき、オプションサービスで請求書の郵送のみ有料機能として提供している。

津田「Misocaのビジネスモデルは、郵送サービスの利益のみということでスロービジネスの積み重ねになりますね。」

豊吉「そうですね。まずは日本の事業者さんたちをアナログからデジタルへ移行させていきたいという思いをベースにやっています。」

「取引と売上を把握して、融資をもっとスムーズにしたい」(豊吉)

たしかに便利なサービスである一方で、いわゆる「金融」というフィールドからは距離が遠いように感じられるMisoca。その点について、豊吉氏はこう語る。

豊吉「フィンテックと一口に言っても、いろいろなジャンルがあると思います。私たちは今後、売掛金をもとに事業性を正しく把握するサービスを提供していくことになります。決済と融資の話でいうと、これまでお金を借りようとして、『来月これくらいの売上があるはずから、これだけ貸してほしい』と言っても『本当にそんな売上があるの?』と疑われてしまい、証明するのが大変でした。ですが、取引の履歴があることで素早く売上を把握できれば、融資がスムーズになります。また、請求先に倒産などの万が一の事態があった場合、損害を補填する保証サービスも行っています。」

他にも、今後Misocaが着手していきたいサービスは多様だ。前述の請求データをもとに即座に融資が可能になるサービスをはじめ、請求後の入金が数か月先になる場合に早めに現金化できるサービスなど、「請求書発行の簡略化」といった事務的な領域から、キャッシュフローなど企業の財務に関わる領域にまで広がりを見せる。

豊吉「インターネットによって情報伝達、製造、物流にかかるコストがかなり下がった。取引においてもコストをゼロに近づけられたら。」

津田「受発注にまつわるあらゆるコストをすべて破壊していくということですね。」

「ビットコインで世界を変えたいなら、今やるしかないと思った」(加納)

津田「加納さんは豊吉さんの話を聞いてどう思いました?」

加納「非常におもしろいサービスですよね。私たちのサービスはBtoCなので、請求書を発行する機会は少ないのですが、それでも書面のやりとりは煩わしいですよね。例えば、NDA(秘密保持契約)。フォーマットが会社によって異なっていたり、やりとりが複数回行われたり、もっと取引が簡略化されてもいいと思っていました。」

豊吉「加納さんのおっしゃる通り、NDAの煩雑なやりとりってすごく無駄な作業ですよね。これはブロックチェーンを応用することで、契約のやりとりも低コストで可能になると思います。例えば、プログラムを合わせることで、契約が終わったら自動で支払いに繋げることもできますし、取引全体がMisocaで終わり、支払いはビットコインで、なんてこともできるかもしれません。Misocaは現時点でクレジットカード払いに対応しているので、ビットコインでも対応は可能だと思います。」

会場からは「ビットコインでベンチャーをやろうと決めた最大の理由は?」という質問も飛び出し、「世界が変わると思いました。このイノベーションの波に乗らないと次は20年後だ、今やらなければいけないと思ったのが一番の理由」と加納氏は回答した。

豊吉「個人やスモールチームの人たちが、情熱を持ってやりたいことに注力していけるようなプラットフォームをつくっていきたい。この先も、必要であれば資金調達や上場を視野にいれて行動していきます。」

加納「ブロックチェーンで世の中が便利になっていけばいいなと思っています。煩わしい物理的なアクションが簡単にできるようになれば。」

とゲストの2人は、今後のフィンテックへの期待を語った。

津田「煩雑だった取引がデジタルで可能になるだけで随分と楽になりますよね。様々なイノベーションがライフスタイルを変えてきているところで、金融の分野は遅れていると感じていましたが、お二人の話を聞いて、もう大きな変化は目の前にきているんだなと感じました。」

Profile

プロフィール

Guest

ゲスト

加納裕三

2001年東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券にて自社決済システムの開発を行う。その後BNPパリバ証券を経て、ゴールドマン・サックス証券に再入社、デリバティブ・転換社債トレーダーとして機関投資家向けマーケットメイク、自己資産運用や企業の資金調達を行った。2014年1月bitFlyer創業。流動性の低い日本のマーケットでビットコインを自らリスクを取って販売。日本価値記録事業者協会(JADA)の代表理事であり、日本でのビットコイン普及に全力を注いでいる。

豊吉隆一郎

1981年岐阜県生まれ。岐阜工業高等専門学校を卒業後、Webのシステム開発で独立。世の中を仕組みでシンプルにしたいという想いで、複数のWebサービスの開発や売却の実績を積む。さらなる飛躍を目指し2011年6月に株式会社Misoca(旧名スタンドファーム株式会社)を設立。

津田大介

1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。 大阪経済大学客員教授。 京都造形芸術大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。 テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。 NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主著に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

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