日本の製造業には「ワクワク感」が足りない。エンジニア集団の創造術に迫る
小西享(プログレス・テクノロジーズ株式会社 取締役)
2017.12.28

2005年より大手メーカーへの技術派遣や受託開発を中心に、業績をあげてきたプログレス・テクノロジーズ株式会社。いわゆる「裏方」仕事をこなすスーパーエンジニア集団だが、2015年以降、ユニークな自社製品を次々と発表し、話題を集めている。

特に「Kickstarter」を使って制作予算を集めた、ブック型電子書籍「全巻一冊」は、漫画『北斗の拳』究極版全18巻を収録していることでも注目され、目標をはるかに超える支援の獲得に成功。高度な技術力で実現した美しい画質とともに、本の質感に近づけるための細部へのこだわりが話題になった。

プロのエンジニア集団として評価を確立していった彼らが、なぜエンターテイメント製品ともいえるような自社プロダクトを開発するに至ったのだろうか。そこには、「ワクワクする」ものづくりを忘れてしまった、日本の製造業全体への思いがあったという。中国をはじめとした新興国が台頭するなか、「ものづくりの国」復活のためには、なにをすべきなのか。プログレス・テクノロジーズの取締役であり、「全巻一冊」などのプロジェクトを牽引する小西享氏に話を聞いた。


取材・文:加藤将太 写真:豊島望

日本のものづくりが、ワクワクできない方向に向かっているように感じる。

HIP編集部(以下、HIP):これまで大手メーカーへの技術派遣や受託開発を行ってきたプログレス・テクノロジーズが、「全巻一冊」のようなユニークな自社製品をつくりはじめた経緯を教えてください。

小西享氏(以下、小西):根本にあるのは、プログレス・テクノロジーズのウェブサイトにも書かれている「いま一度、エンジニアのスピリットを信じよう。世界中の人がワクワクするような『何か』を見つけ、創っていこう」という思いです。

いま、多くの日本人は物質的に満たされている状態です。そのなかで、家電メーカーは、3Dテレビをつくったり、冷蔵庫に新機能をつけたり、既存製品をマイナーチェンジするだけの取り組みに終始している。家電に限った話ではなく、日本のものづくり全体が、ワクワクできない方向に向かっているように感じるんです。

プログレス・テクノロジーズ株式会社 取締役小西享氏

HIP:その「ワクワク」とは、具体的にはどういったことですか?

小西:たとえば、テレビやラジオが初めて登場したときのような「新しい体験」だと考えています。ぼくの体験でいうと、子どもの頃、ソニーのウォークマンに出会ったことがすごく大きかったんです。音楽を持ち歩いて自分の世界に浸れるという新しい体験にワクワクして、死ぬほど欲しいと思ったんですよ。

結局、兄(小西祐一 プログレス・テクノロジーズ代表取締役)が手に入れて、ぼくは買ってもらえなかったのですが(笑)。ウォークマンを通じて、ものづくりの根底には楽しさがあること、新たな体験を提供することのすごさを感じたことが、原体験ですね。

HIP:ウォークマンのように、ユーザーにまったく新しい体験をもたらす製品を開発するのは簡単なことではないと思います。どのようなことを意識してものづくりをされているのでしょうか?

小西:ぼくらのものづくりの原点には、共通する意識があります。それは、本当に「新しい体験」を提供できる製品なのであれば、自然と市場からも求められるのでは、ということです。たとえば、電子書籍が本の進化のかたちとして本当に正しいのなら、スマートフォンやウォークマンのように、すでに主流製品になっていると思うんです。ところが、本の主流は変わらず紙ですよね。約1.5兆円という巨大マーケットである紙の世界に、デジタルには踏み出せないなにかがある。

その課題を解決するためのひとつの方法として、あえて紙の本に近づけた「全巻一冊」を開発し、世に問いかけてみるべく「Kickstarter」で発表したんです。結果として、目標の300万円を大きく上回る、2,000万円以上の開発予算を集めることができました。ユーザーも、電子書籍の進化のあり方に疑問を感じていたんだと思います。

HIP:ただ、新製品を開発すれば、「新しい体験」が生み出せるのではなく、プロダクトとしてあるべき進化のかたちを突き詰めることが大事ということですね。

小西:まさにそうです。子ども用のプログラミング学習ツールとして、株式会社バスキュールと共同開発した「TABO」というロボットがあります。これは、スマホの画面に没入している子どもたちの姿を見たときに、バーチャルな体験だけを提供するデジタルコンテンツのあり方が本当に正しいのか、と疑問を感じたのがきっかけでした。

スクリーンのなかの世界だけに閉じず、現実空間と滑らかにつながったコンテンツのあり方を提示できないものか。この課題意識が、タブレット端末のスクリーン上で動かして遊ぶことができるロボット「TABO」を生みだす出発点になりました。

「TABO」コンセプトムービー

HIP:そういった課題意識は、大手メーカーの受託開発をするなかで芽生えていった部分もあるのでしょうか?

小西:いえ、2005年に会社をはじめたときから「世界中の人がワクワクするような『何か』を見つけ、創っていこう」というビジョンは変わっておらず、その思いをもとに自社製品をつくりたいと考えていました。ですから、じつは「新規事業」としてこれらのプロダクトをつくったわけではないんです。

ただ、会社を立ち上げた当時は、mixiやGreeなどが注目されていた時期で、みんながインターネット上のサービスにお金やリソースを注ぎ込んでいる時代だった。ハードウェアは時代遅れ、みたいな風潮があったんです。

そのなかで、開発資金や技術者を根性で集めて、新しいハードウェアをつくることもできたかもしれないけど、成功する確率は低いと判断していました。実際に、ハードウェアの開発に手を出して苦しんでいるベンチャー企業も多かったですしね。

だから、まずは大手メーカーからいただいた仕事をきちんとこなしていきながら、優秀なエンジニアと資金を手元に集め、ふさわしい時期がきたらすぐに行動を起こせる環境をつくろうと考えたんです。

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高品質を求めるだけでは「新たな体験」は生まれない。受託開発で気づいた、メイドインジャパンの問題点