INTERVIEW
「人の心を理解するAI」がライフスタイルを一新する。HIP conferenceレポート
西野順二(未踏天才プログラマー / 電気通信大学助教)

INFORMATION

2017.10.30

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今回よりイノベーションコンサルティング事業を行うQuantumとの共同開催となったHIP conference。リニューアル第1弾「進化するテクノロジーで、5年後のライフスタイルをどう変えたいか!」と題されたこのイベントでは、人々の生活に変革をもたらすであろうテクノロジーをとりあげ、その業界のトップランナーとともに議論を深めていく。今回のテーマは「AI」だ。人の感覚、感性を理解する技術が実現したとき、AIは私たちにどんな新しいユーザー体験をもたらしてくれるのだろうか。

ビジネスと研究、それぞれの領域を横断するイノベーターたちが集ったイベントの様子をレポートする。

取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎

自動運転に大事なのは、正確に動く技術ではなく、人の気持ちを予測する「優しさ」です。

「AI(人工知能)に人の心を理解することは可能か? そして、人の心を理解するAIは、人々にどんな新しい体験をもたらしてくれるのか?」 最初にトークに登場した西野順二氏(未踏天才プログラマー / 電気通信大学助教)は、集まった聴衆に向かってそう問いかけた。

これまで私たちは、キーボードやタッチパネルでの入力によって、あらかじめ定められたルールにのっとりコンピューターへの意思伝達を行ってきた。定型のインターフェイスを通じた厳格な命令によって、機械と人間の関係がつくられてきたのだ。しかしAI技術が発展した現在、音声入力のような自由度の高い意思伝達が可能となり、これまでの機械と人間の関係性に変化が訪れている。その鍵を握るのが、ファジィ理論(あいまい理論)だと西野氏は語る。

電気通信大学助教西野順二氏

西野順二(以下、西野):いまサービス化されているAI技術のほとんどは、約20年前には基礎部分が開発されていたので、AIはかなり成熟していると言えるんです。研究開発から製品化して、普及するまでは時間を要しますが、いま試験段階のAI技術を見ていると、多くのことが5年以内に実現できる気がします。

そして、AI技術でなんでもできるとなると、「何をやりたいか」が重要になるんですね。そこで、私は「人と人をつなぐインターフェイスとしてのAI」がこれからの社会には求められると考えています。

どういうことか。例えば、私は大学院生だった25年前に自動運転のドローンをつくっていました。最近、自動運転車が注目を浴びていますが、すでにドローンで実現していたんです。

でも、当時指導を仰いでいた教授は、自動運転のドローン開発を成功させた私に「次の目標は手乗りだね」と言いました。手乗りというのはサイズの小ささはもちろん、人間のあいまいな指示を自動で感知して動くことだというんですね。

西野氏が開発したヘリコプターのような形状のドローン

「筋斗雲(きんとうん)!」と呼ぶと、自分のところまで飛んでくる。人々が求める「自動」とはこういうことなんです。「この場所までどのくらいの速度で来い」という指示ありきでは、自動とは感じられない。ですが、こういう厳密ではない指示に反応することは、いまのAIでは難しいんです。人間同士だと「おーい」で通じる指示も、事細かに指定しないといけないんですよね。

つまり、自動運転に大事なのは、機械を正確に動かせる技術だけでなく、人の気持ちを予測して動いてくれる「優しさ」です。そのためには人間の感情と機械をとり持つものが必要になります。両者の橋渡しをするインターフェイスを考える鍵となるのが、私が研究する「ファジィ理論」というものです。

1,000台以上のコンピューターをつなげた「AlphaGo」に人間の棋士は一人で善戦した。脳はかなり複雑な情報処理をしているんです。

西野:ぼくはシステム科学を研究していまして、これは数学によって問題解決をしたり、人と人の関係を扱ったりする学問なんです。そして、数学によって世界を読み解こうとしたときに、一番複雑な存在が人間なんですね。人間は数式では表すことができませんから、数学のモデルに当てはめることができない。ということは、コンピューターで制御することもできないんです。そこで必要になるのが「曖昧」を意味するファジィ理論です。

人間とは対照的に、自然界の動きはまったく曖昧じゃないんですね。物理法則に従ってあらゆるものの動きは規定されます。星はいつまでも軌道上を動いているし、重力も常に存在する。では、曖昧さが世界のどこにあるのかというと、人間のなかにあるんです。

ここで話す人間の「曖昧さ」とは、「1つの条件だけではなく、ひとまず別の視点から検討しよう」という思考のことです。機械計算というのは、設定された条件下でしか判断できないのですが、人間は複数の条件が絡み合うなかで「状況にあった最適な判断を下す」ことに秀でています。

囲碁の例で考えてみましょう。囲碁には1手につき数百パターンの選択肢がありますが、対戦相手の打ち手のパターンを考慮していくと、数手先には数百億通りの選択肢が存在することになります。人間はこの局面でどうするかというと、過去の経験から大雑把な計算を行い、ある程度直感に基づいた判断をするわけです。例えば、相手が打ってくる確率の低い手は考慮に入れず、可能性の高い手に絞って計算を進めていく。こうした情報処理の方法においては、AIよりも人間のほうがまだまだ優れています。

Google DeepMindによって開発されたコンピューター囲碁プログラム「AlphaGO」とプロ棋士との対局は記憶に新しいですが、「AlphaGO」は打ち手のあらゆるパターンを計算するべく、1,000台以上のコンピューターをつなげて計算を行なっているんですね。それに対して人間の棋士はたった一人で善戦した。曖昧という言葉はネガティブな意味として捉えられがちですが、複雑な情報処理をしているんですよ。

日常でのシーンを想定してみましょう。例えばAIによって「室温が20℃以上になったらスイッチがONになる」というエアコンの設定をしたとします。でも、その設定では19℃のときには、何があろうとエアコンのスイッチは入りません。

しかし、人間にとっての最適な温度は、季節や天気、湿度、あるいは身体の状況といったほかの条件によっても変わりますよね。例えば、運動の直後には体温が上がるので、通常時よりも部屋を涼しくしたいと思うのが普通です。人間は日常的に、こういう複数の条件を組み合わせて判断を行っているんです。こんなとき、エアコンが人間の気持ちなど、さまざまな条件を予測して、スイッチを入れてくれたら理想的ですよね。こうした曖昧な計算を応用しようというのがファジィ理論なんです。

じつは今日のプレゼンテーションのテーマには、「愛」というものを設定していました。近い未来、人間とAIが共生する社会がやってきます。そのときAIが担うべきは単純計算を高速に処理することではなく、人の心を読み取ったり、人と人をつないだりすることなんです。曖昧という言葉のなかには「愛」という文字が入っていることにお気づきでしたか? 人間の「愛」のような複雑な情報を理解するAIの登場が、私たちに新たな体験をもたらしてくれるでしょう。

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